電子マネーの老舗「エディ」が6回目の増資を行った。カードの発行枚数では約4700万枚と他の電子マネーを凌駕しているものの、収益源の決済手数料が伸びず苦戦している。しかも、電鉄系のスイカやパスモ、流通系のナナコ、ワオンが急伸。「利用は伸びているが、赤字も増えている」状況にもかかわらず、撤退の可能性は少ないようだ。
決済手数料ではもうからない
電子マネー「エディ」を企画・運営するビットワレットが設立されたのは2001年1月。ソニーグループとNTTドコモなどの11社が出資。その後02年3月、03年2月と12月、04年12月、06年9月と5回、これまでに合計313億7000万円を増資してきた。 電子マネーの「先駆者」として、カード発行に加盟店開拓と端末の設置に力を入れてきたが、設立以来赤字続き。増資で調達した資金の多くをインフラ投資につぎ込むやり方は、「健全とは言えなかった」(金融関係者)。繰り返される増資に不信感を漂わせる株主は少なくなかった。
そうした中で、行われた6回目の増資。ビットワレットは「既存株主に30億円をお願いした」(広報担当者)と話す。
前回(06年9月)の増資のときにも、「引き受け手がいないのではないかと心配されていた」(カード関係者)というが、「30億円は当初の計画どおり」(同氏)で、資金が集まりにくいこともなかったとしている。
携帯向けにANAマイレージや楽天などにポイントをため込む特典を打ち出すなど、利用率の向上に努め、広報担当者は「今回の増資で、収益的にもプラスが見えてくる。いろいろと心配をおかけするが、きちんと結果を出していきたい」と強気の姿勢を崩さない。
そもそも電子マネーは、その利用自体で収益を上げるのはむずかしいとされる。たとえば、セブン&アイ・ホールディングスの「ナナコ」のように、販売促進につなげたり、マーケティングツールに役立てたりすることで、「取引の全体としてプラスに寄与する」仕組みと考えられてきたし、実際にナナコはそれで成功しつつある。
電子マネーを導入するクレジットカード会社の幹部らも、「クレジットカードの補完的役割が目的。電子マネーでもうけることは当初から考えていなかった」と口を揃えるほど。買い物などの決済手数料でもうけるというエディのビジネスモデルは、成り立ちにくいというわけだ。
電子マネーの舞台裏はいまのところソニーの独壇場
6回の増資は、ソニーグループが主体となって引き受けてきた。なにしろ4700万枚ものカード発行枚数と12万2000か所の利用場所があるのだから、「撤退すれば、相当な混乱があるだろうし、ソニーやNTTドコモもそれによるイメージダウンを考えると、後には引けないとの思いがあったのではないか」(前出のカード関係者)と推察する。
しかし、ソニーにとって電子マネーは「成長分野」だ。カード発行枚数が増えれば、ICチップがはけるし、インフラ整備による端末設置料が入ってくる。普及するほど、メーカーとしてのソニーの利益につながる。
一方、エディに搭載されている非接触型ICカードの規格(電子マネーの基盤)は、ソニーが開発した「フェリカ」だ。この技術はエディのみならず、JR東日本のスイカや流通系のナナコ、ワオンなどに幅広く使われていて、日本国内ではもはや「デファクトスタンダード」にある。つまり、ソニー本体はエディ以外でも稼げるのだ。
一見、熾烈にみえる電子マネーだが、その舞台裏はいまのところソニーの独壇場といっていい。現状では競合といっても、買い物のエディと電車の乗り降りに使われるスイカなどは使い分けできるし、ナナコやワオンとはカード発行枚数で3500万枚以上の大差がある。
「頭打ち」がささやかれているが、競わすことで発行枚数も加盟店数も伸ばしていく余地がまだ十分にある。利用者にエディという選択肢を残すだけでも、増資して生かす価値があるというわけだ。