催涙スプレー携帯で在宅起訴された会社員男性が最高裁で逆転無罪となり、捜査のあり方などがネット上などで論議になっている。スプレーは防犯グッズ店などで手軽に手に入るだけに、どのような携帯の仕方なら罪に問われないのか、などと疑問が噴出しているのだ。
催涙スプレーをズボンのポケットに隠していたと起訴
最高裁としては異例なほど、1、2審の判決について激しい調子で糾弾している。
「軽犯罪法1条2号の解釈適用を誤った違法」
「破棄しなければ著しく正義に反するものと認められる」
それもそのはず、今回の逆転無罪判決は、5人もの「裁判官全員一致の意見」であるからだ。
裁判所サイトに載ったこの事件の最高裁判例などによると、被告の会社員男性(28)は2007年8月26日午前3時20分ごろ、自転車で東京・新宿中央公園近くの路上を走行中、正当な理由がないのに、催涙スプレー1本をズボンの左前ポケット内に隠し持っていたとされた。そして、これは、軽犯罪法違反(凶器携帯)の罪に当たるとして在宅起訴され、1審の東京簡裁、2審の東京高裁ともに有罪判決を出し、科料9000円を言い渡していた。
産経新聞の09年3月26日付記事によると、1審は「携帯の必要性がない」、2審は「ポケットに隠していた」点を重くみたという。しかし、会社員男性は、先の金額の罰金刑でも不服とし、労を惜しまず最高裁にまで上告していた。
最高裁判決では、逆転無罪の理由として、次のように説明している。
被告の男性は、会社では経理をしていて、銀行に現金などを運ぶのに、カバンに護身用のスプレーを入れていつも持ち歩いていた。医者の勧めで健康にサイクリングをしており、事件の前日は、夜に寝てしまったため、当日未明に外出。公園など暴漢の危険がある場所を通るため、万一の事態を考えカバンから取り出して携行したというのだ。
さらに、体感治安が悪化していること、男性に前科・前歴もないこと、催涙スプレーが高さ8センチ、内容量11グラムと比較的小型だったことなどから、身を守るための正当な理由があったとしている。
識者「軽犯罪法があいまいで基準が明確でない」
ネット上では、最高裁判決を受けて、警察の捜査のあり方について、賛否両論で議論になっている。2ちゃんねるを見ると、「今のご時世催涙ガスを携帯するくらいじゃないと自分の身を守れないよマジで」「夜中の3時に催涙スプレーもって自転車乗ってる奴なんてどう見ても不審人物だろうが」といった声だ。
しかし、その一方で、軽犯罪法違反という事件だけに、警察がどのような基準で捜査しているのか分からない、との声が渦巻いている。「結局どういう場合に持っていいのか駄目なのかがわからない」というのだ。
被告の男性側は、軽犯罪法に言う危険な器具が不明確だとして憲法違反を主張。これに対し、最高裁は、催涙スプレーで失明する危険があるとこの主張を退けた。スプレー悪用の犯罪が多発する中、人が集まる場所で必要がないのに携帯していいわけではないとしている。
そして、スプレー携帯が正当なのは、「職業・日常生活から、社会通念上相当のとき」だと指摘。客観的には、スプレーの用途・形状・性能や使う日時・場所などを、主観的には、動機や目的などをもとに、総合的に考えるべきだとしている。
早大大学院法務研究科の高橋則夫教授(刑法)は、被告の男性が最高裁まで振り回された背景には、軽犯罪法があいまいで基準が明確でないことがあるとみる。
「これでは、個別事例の問題になってしまい、法を守るべきガイドラインを提供しないことになってしまいます」
そのうえで、高橋教授は、どんな防犯グッズが危険なのか、どんな携帯目的なら不当なのか、の2点をはっきりさせるべきだとする。
「ナイフのような性質上の凶器と、棒のような用法上の凶器が、まだきちっと分類されていません。スプレーなら、例えば、どのくらいの大きさならダメかを例示すべきです。また、携帯目的についても、犯罪のような明らかに不当な目的の場合に摘発を限るべきでしょうね。軽犯罪法を洗い直したうえで、警察は、こうした基準をはっきり示さないといけません。一般の人は、スプレーなどを持つ前に、どうしたらよいのか分からないのですから」