解雇規制が緩やかな北欧の方が、労働生産性が高い?
――池田さんは、「正社員に対する解雇規制を緩和すべきだ」と主張しています。これによってなぜ雇用情勢が改善するのでしょうか。
池田: 雇用が流動化することによって、クビを切られる人が出てきます。ただ、これは短期的な問題で、長期的に見ると、解雇規制の緩和・撤廃によって、企業には新しい人を雇うという動機が生まれる。
企業にとって新卒の学生を雇うのは、大変な投資です。生涯賃金は2~3億円と言われていますから、「一度雇ったらクビにできない」という現状からすると、2~3億円の設備投資をするようなものです。ちょっと大きな工作機械を買うようなものです。
企業側からすれば、正社員は「絶対間違いない人」しか雇わず、それ以外は派遣などの非正規でカバーせざるを得なくなる。リスクヘッジとしては当たり前です。固定費になってしまっているからです。こういう状況を変えない限り、労働需要は増えません。解雇規制の緩和・撤廃は、表面だけ見れば「クビになる人が増える」という可能性が高いですが、長期の、経営者からの視点からすれば、「固定費が低くなる」ということです。そうなると、「(賃金)3億なら5人しか雇えないけど、1億なら15人雇えるかもしれない」と、結果的に直接雇用で多くの人を雇えるようになるはずです。私も「直接雇用が望ましい」点には完全に賛成です。
今の制度では、お上が「直接雇用しろ」と命令することはできません。企業が直接雇用したくなるようなインセンティブ(動機)を与えないといけない。だから、強すぎる規制を緩和する必要があるんです。
――-「解雇規制が緩やかな北欧の方が、労働生産性が高い」という指摘もあります。
池田: 議論としては10年近く前からありますが、学者の間でも見方、評価は分かれています。例えばデンマークでは、OECDの中でも米国、英国、スイス、カナダに次いで解雇規制がゆるく、毎年10%以上が失職するとされています。それでも、手厚い失業支援や政府の就業支援があるため、他の企業に再就職するのも比較的容易で、長期失業者の割合は低く抑えられています。
北欧諸国の「高福祉高負担」は、効率が悪いと思われてきたのですが、デンマークの1人当たりのGDPは米国よりもかなり高い。これはここ10~15年の変化です。