経営破たんやリストラで外資系金融機関を追われた金融マンが、金融庁の中途採用に殺到している。若干名の募集に100人という倍率だ。国内で外資系金融機関を辞めた人は2008年末で3000人を超し、再就職できた人は「そのうちの1割程度」(エグゼクティブ・サーチ・パートナーズの小溝勝信代表)と厳しい。そのうえ、金融庁に就職できても、年収は「ケタ違い」の大幅なダウン。「勝ち組」が一転、悲哀を味わう破目に陥っている。
若干名の募集に100人応募
2009年3月13日に締め切った検査局の募集に金融庁広報部は、「具体的な応募人数については公表していません」としながらも、「こういうご時世なので、応募が多かったことは確か」と話している。金融庁は約1か月間、銀行や保険会社などに立ち入り検査に入る検査官を若干名募集していた。その応募に、「経営が破たんした」「リストラされた」との理由で勤務先の外資系金融機関を辞めた人が集まった。
金融庁はこれまでも金融検査官や、弁護士や会計士などの専門職を中途採用しており、今回の採用についても、「(景気悪化の影響などで)採用人員を増やしたというわけでもなく、これまでと変わったことはない」(広報部)という。
一方、証券会社などを検査する証券取引等監視委員会は、検査官や市場調査、システム、課徴金の担当など業務で募集。09年1月に締め切ったが、若干名に100人超の応募があった。「外資系の人も少なからずいました」(総務課)という。
金融庁や証券取引等監視委員会の職員募集に元金融マンが殺到するのは、かつて山一證券や北海道拓殖銀行が経営破たんしたときと同じ。応募者について、証券監視委は「専門的な能力が必要な仕事ですし、志の高い方は少なくないです」と話す。
ケタ違いに安い給料でもガマンするしかない
人材コンサルティング会社のエグゼクティブ・サーチ・パートナーズ(ESP)によると、サブプライムローン問題が発覚して以降に外資系金融機関を辞めた人は2008年12月末で3000人を超えた。08年秋のリーマン・ショックで、リストラの勢いはさらに増している。
外資系金融機関の中でも比較的余裕があったゴールドマン・サックスやJPモルガンなども中途採用をストップしており、転職市場は水面下に沈んでいる。「離職者が数10人、数100人と増える一方で、募集人数は若干名では、間に合うはずがない」(ESPの小溝勝信代表)。転職を繰り返すことでスキルも給与もアップしてきた外資系金融マンも、受け入れてくれる金融機関がないのだからお手上げだ。
首尾よく金融庁の職員に納まっても、長続きするかは分からない。小溝代表は「山一や拓銀の破たんで金融庁に採用された人は、ほとんど辞めましたよ」と明かす。金融庁の年収300万~400万円は、外資系金融機関のそれとは比べものにならないほど低いので、景気が回復すると、再び民間企業に移ってしまうのだ。
証券取引委も「外資系出身者が驚くほど多いということはないと思います。そもそも年収が違いすぎますから」と話す。
ある外資系証券の幹部は、「外資系の人はこれまでの蓄えがあるだろうと思われがち。しかし、実際は株式や不動産に投資していて、この金融危機ですべて塩漬けになって、手元に資金がない人が少なくない」と話す。
外資系金融マンは、いよいよ追い込まれている。