TBSの労働組合がボーナスの大幅ダウンを不満として、全面ストライキに入ったことが分かった。民放労連によると、過去に例のない2~3割ほどの大幅カットだという。ストは労働者の権利だが、識者からは、このテレビ不況の中で、むしろ下請けの待遇改善に努めるべきとの意見も出ている。
定期昇給は確保
労組が全面ストに入ったTBS
TBS系で2009年3月13日正午前後に放送の情報番組「ピンポン!」。そこで、総合司会の福澤朗さんが、何も理由を言わずにこう告げた。
「木村郁美アナウンサーは、今日はお休みです」
それから、この日夜にかけて、同局の看板アナらが次々に姿を消す事態に。春闘の時期だけに感づいた視聴者もいたらしく、ネット上では、「TBSの労働組合がストライキしているらしい」との情報が出回った。
全労連系の民放労連によると、TBS労組は、この日正午から深夜零時まで全面時限ストを行った。労組には、管理職以外すべてが加入しており、同局のアナウンサーも多くがストに参加したらしい。
ストに踏み切った理由として、民放労連は、春闘における局側の一次回答が、過去に例を見ないボーナスの大幅ダウンだったことを挙げる。詳しい数字は聞いていないとしながらも、なんと、2~3割ほども削減されたというのだ。過去にダウン回答はあっても、せいぜい数%ほどだった。
ボーナス大幅カットについて、民放労連の井戸秀明書記長は、「通常の幅ではなかった」と不満を漏らす。そして、その理由について、こうみる。
「非常に広告収入が落ち込んでおり、一部キー局が赤字状態にあります。TBSはそこまで行っていませんが、赤字に備えたということでしょう」
今回の交渉では、決まった定期昇給は、確保された。しかし、ボーナスについては、現在、二次回答待ちの状態だ。井戸書記長は、「組合としては、アップを期待したい」としている。なお、賃下げを巡るストはここ10年ほどでもあったという。
「下請けの待遇改善にもっと関心を持った方がいい」
民放労連によると、このテレビ不況で、大阪のテレビ局も、TBSと同じぐらいのボーナス大幅カットの提示だったという。ただ、東京のキー局では、TBS以外はまだ出そろっていないといい、井戸書記長は、「TBSと同じようなことがないように願いたい」としている。
日本は、未曾有の大不況下にあり、倒産する企業も相次いでいる。そんな状況の中で、春闘でストまで行うのは通常ありえることなのか。
この点について、山口福祉文化大の高木郁朗教授(労使関係論)は、ストライキの実施は、景気よりも個別の事情によると話す。
「確かに、高度経済成長期には、取れるときに取るとストが多く見られました。しかし、斜陽化した石炭産業でも、1970年代にストが相次いでいます」
実際、電機連合では2009年春闘で、定期昇給が実現されない場合は、ストを行う姿勢をみせている。
そして、高木教授は、労働者のストについて、ある程度の理解を示す。
「不況だから、待遇について我慢しなさいというのは間違っています。アメリカで1930年代にあった大不況は、賃上げをし、ワーキングプアをなくしたことで、景気がよくなりました。我慢するとかえって経済を悪くします」
ただ、規制に守られたテレビ業界については、高木教授は、こう疑問を呈する。
「自分たちが得てきた賃金や労働条件を維持したいというのは分かります。しかし、もっと大事なことがあります。テレビ業界は、重層的な下請け関係があり、下請けのワーキングプア状態を改善していく方向へ民放労連なども関心を持った方がいいと思います。もっとやることがあるのでは、ということです」