兵庫県警の警察官が職務質問する様子の動画がユーチューブなどに投稿され、声を荒げる職質ぶりが波紋を呼んでいる。職質を受けた人が、名前を明かすのを頑なに拒むなどしたためとみられる。動画投稿の是非を含め、職務質問のやり取りはどうあるべきか、論議になっている。
兵庫県警警察官「肖像権の侵害でしょ」
ユーチューブ投稿動画の一シーン
いきなり、男性3人、女性1人の警察官に囲まれる場面から、2分半の動画はスタートする。
「挙動不審やから。何か身分証明書あります?」
メガネをかけ、がっちりした体格の男性警察官が、こう口火を切る。大きな車道沿いの歩道で、昼間に職質を受けたらしい。ただ、職質を受けた人の姿や声などは一切カットされている。
この警察官は、名前を名乗った後、胸の内ポケットから警察手帳を差し出す。ところが、相手は、名前を名乗り、免許証を提示することを頑なに拒んだようだ。警察官らは、いらだった様子で何度も催促し、映像撮影についても手で遮りながら「肖像権の侵害でしょ」とまくしたてた。
しかし、いくら言っても応じる様子がない。かなり腹を立てたのか、ついには、こう声を荒げたのだ。
「人の名前を聞いて、あなたはそのまま行くのか。汚いやつやなあ。人間的に汚いやつですね、と言うとる」
それでも拒んだり言い応えしたりしたためか、「警察官を侮辱じゃ」「お前に言われたくないんじゃ、こりゃ」などと声を上げ、交番に来るよう迫った。しかし、応じないのを見て、「ほっとこ」と言いながら去るシーンで終わっている。
この動画は、ユーチューブには2009年1月17日に投稿され、7万回以上が再生され、400件ものコメントが付くほど関心を集めている。兵庫県警によると、神戸市中央区内で1月、職質を受けた人が映像を撮影した。投稿者は自称、兵庫県伊丹市内に住む会社員(29)とプロフィールを明かしている。
冷静に毅然とした職質を各署に指示
この動画について、神戸新聞が2009年3月10日付夕刊記事で取り上げると、ネット上で反響を呼んだ。2ちゃんねるは、スレッドがいくつも立つ「祭り」状態に。書き込みでは、警察官の職質ぶりについて、賛否両論が分かれている。
理解する声としては、「おかしな奴には違いないようなので、職務質問したくなるのも良く分かる」「公務執行妨害でパクりゃいいじゃん」、否定的な意見としては、「警察の職務執行のあり方も考え物だぞ だいだいなんでタメ口なんだ?」「公僕に肖像権はないだろ」といったコメントが出ている。
警察側では、こうした動画投稿の対応に苦慮している。勝手に警察官の職質ぶりを撮影・投稿され、しかも動画が投稿者の都合で警察官側だけのシーンに編集されているからだ。しかし、警察官への撮影や投稿を規制するような法はないことが分かり、兵庫県警では、冷静に毅然として職質することなどを各警察署に文書で指示した。
ところで、職質を拒否されたり言い応えされたりしたのに、なぜ公務執行妨害で身柄を拘束するなどできなかったのか。
これについて、兵庫県警の地域指導課では、「コメントを控えさせていただきます」と述べるのみだ。交番への同行を求めても、無視して撮影を続けたため、警察官らが主体的に判断して職質を打ち切ったとだけ明かしている。また、職質の言葉が適切だったかについても、コメントを控えるとしている。
ネット上では最近、職務質問の様子を撮影した動画が投稿されたり、サイトや掲示板で職質を拒否する方法のQ&Aが載ったりする例がよく見られる。兵庫県警によると、職質が拒否されることも多くなっており、そのあり方を考え直す時期に来ているようだ。
日大大学院法務研究科の板倉宏教授(刑法)は、こう指摘する。
「職務質問の撮影・投稿は、何法に触れるか難しいですが、あまりよくないことだと思いますね。勝手な映像公開は、肖像権の侵害と言えるのでは。しかし、このケースでは、暴行や脅迫があったならともかく、公務執行妨害とは言えません。警察官の職務質問については、声を荒げて言ったことは具合が悪いでしょうね。もっと丁寧な言葉遣いにするべきです。動画を規制する新しい法整備は必要なく、警察もまじめに職務をしていれば恐れることはないと思います」