「私はとっくにボーナスをあきらめているし、役員ボーナスのカットも実行している。これから頑張ってもらう役員にも少ないボーナスで仕事をしてもらう」
2009年2月27日、東京都品川区のソニー本社で社長兼務と4人の若手役員の抜擢を発表したソニーのハワード・ストリンガー会長(67)は、役員報酬のあり方についてこう発言した。ソニーは、08年秋からの金融危機による経済環境の急変や国際競争の激化などで業績が急激に悪化、年末から1万6000人の人員削減に踏み切ったが、経営陣としても「応分の痛み共有」の姿勢を強調した。
2005年に出井伸之氏の後を継いでソニーの会長兼CEOに就任したストリンガー氏は、英国生まれ。英オックスフォード大大学院終了後、米放送大手のCBSに入り、放送部門プレジデントなどを経て97年にソニーの米国法人社長となり、映画部門のM&Aなどに力を発輝した。ソニー会長就任後はグループ全体を見る立場となり、生え抜きの中鉢良治社長にエレクトロニクス部門の競争力強化を委ね、一時は売り上げ、利益とも過去最高を達したが、テレビ事業の赤字がかさみ2009年3月期には過去最大の2600億円の営業赤字を見込むなど再び業績が悪化。ストリンガー会長が中鉢氏に代わって社長を兼務し、直接ネットワーク関連事業、製品事業などの事業を管掌することにした。
経営トップの高額報酬などが問題になっている折、米国の経営スタイルを持ち込むストリンガー氏についても、仕事が増える分、役員報酬なども増えるのではないかとの観測があったが、記者会見ではその可能性を否定した。米国では公的資金導入を要請したGMのワゴナー会長に対し、米議会公聴会では「1ドル報酬でも仕事をする気があるか」との質問が出たが、ストリンガー氏もこうした世論の動きを念頭に置いた発言と見られる。しかし問題は、「少ない賞与」で働く人材がどれだけ見つかるかだ。人事交代を発表した記者会見の席上、ストリンガー氏はしきりに若手人材の登用を強調したが、ストリンガー氏の後継者と目されるような有力人材は見当たらなかった。厳しい環境に置かれたソニーは、人材でも後継者難という問題にぶつかっている。