高額所得者が定額給付金を受け取ることを「さもしい。人間の矜持の問題」などと酷評していた麻生首相が一転、「目的が景気刺激ということであれば」と、受け取ることを表明した。あわせて、地元で使いたい意向を示した。もっとも、麻生氏の「地元」の経済状況は極めて厳しく、定額給付金をなんとか消費につなげようと、地元商店街限定で使える「プレミアム付き商品券」の発行を計画中だ。
「消費刺激ということであれば、私も参加する」
福岡・筑豊地方の麻生事務所。ポスターには「まずは、景気だ」とある
麻生首相は2009年3月2日の自民党役員会で、「当初は生活支援の意味合いが強かったが、今では消費拡大の性格が強くなった」として、定額給付金を受け取る意向を示した。さらに、「地元で使いたい」とも述べた。麻生首相は08年12月、高額所得者が定額給付金を受け取ることについて「さもしい」と論評。波紋を呼んだことは記憶に新しいが、自身が定額給付金を受け取るかどうかは明らかにしてこなかった。
同日夕方の囲み取材でも、
「私としては、定額給付金は受け取ります」
「今は(目的の)比重が大きく変わりましたから、消費刺激ということであれば、私も参加する」
と方針転換の理由を説明した上で、記者が
「具体的な用途は決まってるんでしょうか?」
と、「地元で使う」の具体的な内容を尋ねると、
「『何に使うかという用途まで、なんであなたに説明しなきゃいけないの? 』とおちょくるようなことはやめて下さい、と誰かに言われたけれども…。家内と相談します」
とかわした。
定額給付金は、1人あたり1万2000円だが、麻生氏は65歳以上のため、受給額は2万円だ。2万円にポケットマネーを足した上で、「地元」である福岡県飯塚市で商品を購入したい考えのようだ。
ただ、首相の地元の経済状況は厳しいのが現状だ。
例えば、日本銀行福岡支店は09年3月2日、「九州・沖縄の金融経済概況」を発表。
「九州・沖縄の景気は、さらに悪化している」
「生産は減少幅がさらに拡大し、雇用・所得環境は厳しくなっている」
と、厳しい見通しを明らかにしている。
昼間からシャッターが降りたままの店舗が目立つ
九州経済そのものが苦境に立たされるなか、麻生氏の地元である飯塚市の状況はさらに厳しい。
飯塚市がある筑豊地区は、60年代の炭坑閉山以来人口の減少が続き、少子高齢化が進行。経済的に衰退してしまったとされている。例えば高齢化率(07年調べ)を見ても、福岡県の平均が20.4%なのに対し、飯塚市は23.2%。さらに、生活保護率は4.5%で、県内に66ある市町村のうち、12番目の高さだ。なお、福岡・北九州・久留米などの都市圏では1.2~1.3%という水準だ。
県内の他地区と比べて、経済の面で足腰が弱いのは間違いなさそうだ。さらに、08年4月には、中心部にある商店街が火災に見舞われ、10棟が全半焼するという被害にあってもいる。昼間からシャッターが降りたままの店舗が目立つというのが現状だ。
なお、福岡県内の商工会では、定額給付金を地元の消費につなげようと、地元商店街限定で使える「プレミアム付き商品券」の発行を計画中だ。購入金額よりも1~2割多い額の買い物が出来る仕組みだ。福岡県でも、商品券印刷代などについて、1億5000万円の予算を計上する見通しだ。
福岡県商工会連合会の筑豊支所では、プレミアム付き商品券については、
「商工会議所と市内に4つある商工会との間で、現在話を詰めているところです」
と、具体的な検討を進めていることを明らかにした上で、麻生首相の「地元で使う」宣言については、
「すぐさま効果が出るかどうかは分かりませんが、『旗を振っていただいている』という姿勢は有り難いことだと思います」
と話している。
加えて、実は麻生氏、08年秋の就任以来、本当の意味での「地元入り」をしない状態が続いている。08年12月に九州国立博物館(福岡県太宰府市)で初めての日中韓サミットが行われた際、2日間にわたって福岡県入りしたものの、会談・視察など何らかの活動をしたのは福岡市・北九州市・太宰府市の3自治体のみ。「地元にお金を落とす」日がいつになるのかは、不透明な情勢だ。もっとも、解散総選挙の際には「お国入り」する可能性も低くはない。