春闘交渉「ベア」どころか 産業界に広がる「定昇も無理」

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   未曽有の経済危機の中で始まった今春闘は、これまでにない厳しい交渉は避けられない見通しだ。経営側からは「定期昇給分の維持も難しい」と、事実上の賃下げの可能性を示唆する声も出始め、賃上げの旗を掲げる労働側は厳しい戦いを強いられる。

「ベアは困難」が産業界の大勢

   トヨタ自動車労組は、組合員平均4000円のベースアップ相当分などを要求している。しかし、要求書提出当日の2009年2月18日、トヨタの経営側は素早く「要求は到底受け入れがたい」と述べ、事実上のベアゼロ方針を打ち出してしまった。

   トヨタ労組は「物価上昇に見合ったベア要求」という自動車総連の方針に従い、前年の1500円(妥結額は1000円)を大きく上回る要求を行った。しかし、トヨタを巡る経営環境は厳しさを増している。08年秋から続く金融危機の深刻化と景気後退で、新車の販売減は止まらず、今後の販売動向についても「どこが底だか見えない」(大手役員)という惨状から抜け出せない。

   このため、トヨタは09年3月期の連結最終(当期)損益が3500億円の大幅赤字に転落する見通しを発表。営業損益も4500億円という歴史的な赤字を予想しており、金融を除く国内の事業会社の中では過去最大の赤字となる見通しだ。こうした中、トヨタの小沢哲専務は「賃金に関しては引き上げるどころか、(定昇分に相当する)賃金制度維持分の確保すら極めて困難」と主張、定昇分の7100円についても難しいとの考えを明らかにする事態となっている。

   こうした動きはトヨタだけにとどまらない。春闘を先導する自動車や電機などの輸出産業は今、世界景気の急速な悪化とそれに伴う需要の急減で大打撃を被っている。09年3月期には軒並み赤字に転落する見通しで、「ベアは困難」との姿勢は大勢だ。

落としどころがまだまだ見えない状況

   そればかりか、定昇分を保つことも難しいとの指摘も広がりつつある。電機連合傘下の労組は、前年(2000円)の2倍を超える4500円のベアを求めているが、経営側からは、「ベアを回答できる状況にはない。(定昇に相当する)賃金体系維持があって当然、という考えは成り立たない」(日立製作所)との声が上がった。

   労組側にも厳しい経済環境への理解はある。しかし、「個人消費の落ち込みを食い止め、内需拡大で雇用維持につなげるべきだ」(自動車総連の西原浩一郎会長)との筋論も捨てがたく、簡単に要求を降ろせない。非正規雇用を含むワークシェアリングの論議も含め、今春闘は落としどころがまだまだ見えない状況が続く。

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