日本郵政の「かんぽの宿」の一括譲渡をめぐり、日本郵政が社内や財務アドバイザーのメリルリンチ日本証券などとの交渉過程で、日本郵政を「ローマ」、かんぽの宿を「フィレンツェ」などの隠語で表現していたことが明らかになった。隠語はこのほか、オリックス不動産を「オルガン」、同社のライバルとなったホテル運営会社「ホテルマネージメントインターナショナル」を「ハープ」などと表現し、社内のメールや電話のやり取りなどで使っていたという。
イタリアの地名や楽器の名前に深い意味はない
M&A(企業の合併・買収)業界関係者によると、企業買収などの交渉過程では、社内外でインサイダー情報が漏れるのを防ぐため、当事者同士で隠語を使うのが一般的という。日本郵政は「情報管理のため隠語を使った。イタリアの地名や楽器の名前に深い意味はない」と説明している。
今回、これらの隠語の存在がわかったのは、日本郵政が2009年2月16日、入札に関する詳細な資料を総務省に提出したからだ。この資料は段ボール箱で17箱にのぼり、総務省は郵政行政部の担当者が専属で分析に当たっているが、この資料について、鳩山邦夫総務相は「言い訳のオンパレード」と酷評していた。総務省が17箱の資料を詳細に分析するには時間がかかる見通しだが、判明した事実は逐一、鳩山総務相に報告されている。今回の隠語の存在も、郵政行政幹部が伝えた情報に他ならない。
実は鳩山総務相が隠語の存在を暴露したのは、衆議院の議員食堂で開かれた閣議後会見の終了直後だった。正確には記者団との質疑応答が終わり、鳩山総務相は席を立って退場しようとしたが、途中で思い出したかのように席に戻り、記者団に「日本郵政が隠語まで使っていることまで、こっちはつかんでいる」とまくし立てたのだった。
「M&Aの世界では、機密保持のため、隠語は一般的」
さすがの鳩山総務相も、M&Aの現場で隠語が多用されるのは理解していたらしく、それ以上、日本郵政を追究する言葉はなかったが、「資料の分析は順調に進んでいる」とアピールしたかったとみられる。鳩山総務相は「ハープというのは、ハープシコードのハープかな。楽器のハープがB社(ホテルマネージメントインターナショナル)と言われているところのようだ」と、得意そうに語った。