日本では15歳未満は臓器提供が認められていない
こうした状況を受けて、臓器移植の待機患者数は年々増加傾向にある。法制定後、07年5月31日までに279人が心臓移植候補として登録された。そのうち国内で移植手術を受けたのが同年6月末までで45人、渡航移植が29人。94人は待機中に亡くなっている。
海外で心臓移植を受ければ5000万~1億4000万円かかり、国内で健康保険を使って受けた場合の167万6000円を大きく上回るが、募金を集めるなどして渡航するケースが目につく。特に15歳未満は臓器提供が認められておらず、大人の臓器では大きすぎるために、助かるには海外に行くしかない。
最近の例では、難病の拡張型心筋症を患う千葉県白井市の高橋さくらちゃん(生後11か月)を救おうと、両親の友人らが「救う会」を09年2月3日に結成。移植手術に必要な費用は1億1700万円に上る。心臓が拡張しづらくなる難病、拘束型心筋症を患う長野県飯田市の小学1年生、山下夏君(7)は目標の募金1億8000万円が集まり、2月6日に渡米した。特発性拡張型心筋症で重い心不全に苦しみ、心臓移植のため09年1月6日に渡米していた千葉市稲毛区の中学2年、岩田天晴君(14)は、ニューヨークのコロンビア大学小児病院での移植手術に成功。08年9月から募金活動を開始し、11月末までに渡航費用など約1億6600万円が集まったという。
一方、海外では臓器不足から、「臓器は自国内でまかなうべきだ」とする論調が強まっている。
国際移植学会はイスタンブールで行われた会合で、「臓器提供の自給自足を達成するための努力をすべきである」「国外患者への治療は、自国民が受ける移植医療の機会が減少しない場合にのみ許容される」などとする宣言を2008年5月に行った。WHOでも同様の意見が出ており、渡航移植の道が閉ざされるのではないか、と懸念されている。
日本小児科学会の会長で横浜市立大学医学部小児科の横田俊平氏は09年2月15日の記者会見で、15歳未満の子供からの臓器提供を検討する委員会を早ければ3月に発足させる、と発表。委員会は医者、法律専門家、患者で構成される予定だ。
これまで同学会は、(1)子どもの自己決定権の確保に社会的合意が得られていない(2)脳死判定の確実な方法が確立していない(3)虐待されて死亡した場合の見極めが難しい、という3点から、「小児脳死臓器移植は時期尚早である」との見解を示していた。臓器移植を取り巻く情勢の変化に加えて、医学が進歩して虐待死を見極められるようになり、議論を進める段階に来たとしている。