臓器移植手術を海外に頼っている日本に、逆風が吹いている。世界的な臓器不足から、「臓器提供の自給自足」を促す声が各国で強まっているからだ。日本は臓器の提供そのものが海外に比べて圧倒的に少ない。しかも、15歳未満は臓器提供が認められておらず、子供の場合、生きのびるには海外に行くしかない。しかし、それは臓器移植の機会を外国の子供から奪っているにも等しいのである。
海外禁止なら「日本の子供は死ぬしかありません」
臓器移植、とりわけ子供を巡る環境は深刻だ。
日本臨床腎移植学会の相川厚会長(東邦大学医学部腎臓学教室)は、こう訴える。
「日本人の子供1人がアメリカで移植手術を受けた場合、アメリカで待機している子供が1人死にます。アメリカで年間およそ80人が待機していますが、臓器は足りず、死んでいく子供が50人~80人いるんです」
アメリカは外国人への移植を全体の5%に制限している。それは主に移植技術がない国や、保険適用がない国から受け入れるためにある。にもかかわらず、3年前に日本人が枠を独占、顰蹙(ひんしゅく)を買ったという。
イギリス、オーストラリアではすでに日本人の締め出しが始まっており、ドイツも受け入れを断るようになっている。
「手術件数は少ないですが、日本の移植技術はアメリカやヨーロッパよりも高いんです。健康保険もききます。にもかかわらず、海外で手術を受けているというのは、他国から見ればおかしなことです。法律で15歳未満の臓器提供を許可していないのも、日本だけです。今後、アメリカで手術が受けられなくなれば、日本の子供は死ぬしかありません。それほどせっぱつまっているんです」
外国人への臓器移植を2007年から原則禁止している中国で、日本人17人がヤミで手術を受けていたことが09年2月にわかり、中国政府は関係者を厳しく処罰する方針だという。こうした具合に、日本人に対する風当たりも強まりつつある。
日本移植学会によると、日本人が海外で臓器(心臓)移植を受けた件数は1984年から2007年7月末までで、116人にのぼる。
それに比べて国内での実施例は少ない。07年6月30日現在で見ると、心臓移植実施施設として認定されている施設は国立循環器病センター、大阪大学、東京大学、東北大学、九州大学、埼玉医科大学、東京女子医科大学の7施設で、あわせて45例の心臓移植を行っただけだ。
国内での実施が少ないのは、臓器提供者が集まらないためだ。人口100万人あたりの年間心臓提供者はスペインが12.5人ともっとも多く、アメリカ10.1人、ベルギー8.98人、イギリス7.58人、ノルウェー6.17人と続く。日本は0.05人で、先進国13国で最下位だ。
日本臓器移植ネットワークの広報担当者は、
「臓器移植の医療行為としての効果が認められたのは1960年代のことですが、日本で臓器移植法を策定して動き出したのが30年後の1997年でした。欧米では問題点を抱えながらも法律を整備し、ルール作りを進めてきたのに対し、日本は約30年間止まっていたんです。そのため日本人の意識に(臓器移植が)根付いていません」
と訴える。
さらに、日本の法律が「厳しすぎる」と指摘する。世界保健機関(WHO)の指針では、本人の意志が不明の場合、家族の書面による承諾で臓器提供が可能としているのに対し、日本は「本人の生前の書面による意思」が必須となっている。世界中を見てもこれほど制約があるのは日本だけ、という。
「書面があっても、最終的に家族の同意がなければできませんし、様々なルールでがんじがらめになっています。脳死に対する考え方も海外と異なります。脳死が死であると捉えている国が多いですが、日本人の感覚では心臓が止まらないと死ではない、とされています。遺体を傷つけたくないという思いも強く、臓器提供への理解が得られにくいのです」