急速に悪化した企業の資金繰りを支援するため、日銀はコマーシャルペーパー(CP)、社債、銀行保有株の買い取りを相次いで決めた。政策金利が年0.1%となり、利下げがほぼ限界に達して、「金利よりも資金供給の量」に軸足を移さざる得ない非常事態だ。景気低迷は当面続くとみられ、日銀は「未踏の領域」で一段と難しいかじ取りを強いられる。
企業が倒産すると、損失は日銀の負担
日銀のCP買い取り額(企業の売り掛け債権を担保とした資産担保CPも含む)は最大3兆円。既に日本政策投資銀行がCP2兆円の買い取りを決めており、CP市場は約17兆円(資産担保CP含む)のため、日銀と政投銀が公的資金で合計3割近くを肩代わりする異常な状況となる。
銀行の保有株買い取りは約4年半ぶりの再開。株価急落が銀行の財務を直撃し、融資余力を減退させている。前回(2002年11月~04年9月)は約2兆円を買い取ったが、このうち1兆円余りは現在も日銀が保有しているため、今回は1兆円を買い取る方針だ。
だが、CPや社債、株の買い取りは、発行した企業が倒産すると、損失は日銀の負担となる。中央銀行への信頼が低下する恐れがあるため、損失リスクのある資産を買い取るのは「禁じ手」とされてきたが、もはや「異例」(白川方明・日銀総裁)の策を相次いで繰り出さざるをえない事態に追い込まれた。
とりわけ、銀行保有株は、政府が20兆円の買い取りを表明したが、与野党対立のあおりで、買い取りのための関連法案の審議が遅れている。年度末に間に合わない恐れが出てきたため、日銀が急きょ「つなぎ」の役割を負わされた格好だ。銀行保有株は08年9月末時点で約17兆円あるだけに、1兆円では「小規模」だとして、実効性に懐疑的な見方も根強い。
CPなどの買い取りは時限措置?
白川総裁は「現時点でこれ以上の買い取りは考えていない」と述べ、リスク資産の買い取り対象の拡大に「予防線」を張っている。なし崩し的な拡大を防ぐため、CPなどの買い取りは時限措置とした。だが、景気低迷は長引きそうで、「日銀への買い取り圧力が強まりかねない」との観測も出ている。
日銀は98年11月の金融政策決定会合で、やはり当時の資金繰り難に対応するため、企業向け債権を担保に金融機関に資金を供給する臨時制度の導入を決めたが、ある審議委員は「エスカレートして『社債を買え、株式を買え』といった要求に発展しかねない」と危ぶんでいた。それが10年後の金融危機で現実のものとなり、日銀は「財務の健全性」と「景気底割れ回避」という、相反する命題のはざまで綱渡りの政策運営を迫られている。