レセプトのオンライン請求義務化 厚労省方針に医師側から「待った」

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   厚労省は、医師が請求するレセプト(診療報酬明細書)について、2011年4月からオンラインによる方法しか認めないとの方針を打ち出している。これに対し、医師の一部に反発の声があがり、09年1月21日には神奈川県保険医協会が中心になって、義務化の撤回を求めて横浜地裁に提訴する騒ぎになっている。

実施なら医師の1割が「辞める」

   医師など医療機関は保険診療を行なった際、診療報酬を受け取るために、レセプトを提出する。このレセプトは第三者機関の審査を経て保険者に送られることになっている。厚労省はこの「レセプト」の提出方法をオンライン請求に切り替えようとしているわけだ。この目的について、政府は06年1月の「IT新改革戦略」で「医療の情報化を通じて集積される診療情報、検診結果及び診療報酬請求データ等の健康情報を有効に活用」し、「医療の情報化の促進により事務管理経費を削減し、医療費の適正化を進める必要がある」と述べている。

   医療機関が第三者機関へレセプトを提出するには、(1)手書きで送る(2)レセプトコンピューター(レセコン)に情報を入力し、プリントアウトした紙を送付する(3)レセコンに情報を入力し、電算処理ソフトで処理したデータを電子媒体に記憶させ、送付する(4)レセコンに情報を入力し、オンライン請求する、の4方法がある。厚労省の方針では、現在(4)以外の方法で提出している医療機関が対応を迫られることになる。

   こうした義務化の方針に対して、全国保険医団体連合会が08年2月までに14079の医療機関に、「オンライン請求義務化に関するアンケート調査」を行なったところ、請求に「対応できない」「わからない」という回答が過半数をしめた。更に、請求が義務化されれば、医師の12.2%、歯科の7.2%が「開業医を辞める」と答えたという。

   なぜ、開業医が「辞める」自体にまで発展してしまうのか。アンケートでは「導入に見合う収入がない」「自分では操作に対応できない」「処理に必要な人員が確保できない」などの声があがったという。オンライン請求には、「レセコンの導入」、「レセコンを電算処理システムに対応させる」こと、及び「オンラインで請求するシステムを導入する」ことが必要である。この「レセコン」導入については多額の費用がかかるという。J-CASTニュースが複数の保険医協会に問い合わせたところ、現在手書き請求している開業医が「レセコン」を導入する場合、「200万から400万円ほどの見積もりがくる」、更に「事務員の人件費も必要」とのこと。

   また、「開業医には高齢の人が多く、今までのやり方を変えるのは難しい面もある」と言う。

「地方で、経営的にも体力的にもギリギリの診療をしてきた高齢の医師が、閉院に背中を押される、ということになってしまう」
「医師が辞めて無医村が増えたら、地域医療が崩壊しかねない」

と心配する。

医師会に「代行」をお願いしたい

   こうした現場からの不安を厚労省はどうみているのだろうか。J-CASTニュースが同省保険システム高度化推進室に問い合わせると、

「レセコンについては、高齢でコンピューターを使ったことのない医師に、新規に購入し、覚えてくれ、というお願いではない」
「手書きでレセプトを請求している医師に関しては、医師会、歯科医師会にとりまとめ、代行請求をお願いしている」

との返事だった。

   この代行請求について日本医師会広報情報課に問い合わせたところ、同会の主張はあくまでオンライン請求義務化の「撤廃」と、任意で提出方法を選択できる「手挙げ方式」であるとしながらも、

「もし義務化が撤廃されずに代行請求実施ということになれば、多数の人員やセキュリティの整備が必要になり、医師会で体制を整えるのは不可能に近い。レセプトを審査する第三者機関(支払基金など)に直接提出できるよう交渉中である」

との回答を得た。

   厚労省の06年の調査では、診療所(開業医)医師の平均年齢は58.0歳。病院医師の平均年齢42.4歳と比べて、高齢化している。ある診療所の院長は言う。

「医療費の削減を掲げる厚労省にとってオンライン化はぜひ実現したいことなのだろうが、それによって保険医療のレベルを下げるようなことがあれば、本末転倒になってしまいますよね」
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