「派遣切り」などで雇用環境の悪化が深刻化するなか、「自殺志願者」の数も増加を見せている。例えば、「自殺の名所」で自殺防止活動を行うNPOでは。例年の数倍の人数を保護しており、「ものすごいペースだ」との声が聞こえてくる。さらに、その少なくない部分が「派遣切り」にあった人だ。別のNPOからは、「拓銀が破綻するなどして自殺者が急増した97年度末の水準になるのでは」との声もあがり、状況は厳しさを増している。
保護された16人中7人が「派遣切り」
日本では、年間3万人が自殺するとされているが、09年は、さらに増加するのでは、との見方が広がっている。
例えば、断崖絶壁が続き「自殺の名所」としても知られる福井県の東尋坊では、年に30人程度が自殺するとされる。現地をパトロールし、自殺志願者を立ち直らせる活動を行っているNPO法人「心に響く文集・編集局」(茂幸雄代表、福井県坂井市)によると、例年であれば、冬は自殺志願者は少なく、11月~1月の期間に保護されるのはせいぜい3~4人程度。ところが、景気悪化が明るみに出た08年11月~09年1月にかけては、実に16人が保護されている。さらに、そのうち7人が「派遣切り」にあった人なのだという。
茂代表は、
「保護される人は、ものすごいペースで増えています。所持金もほとんどない人が多く、先日保護した人は20円しか持っておらず、内訳は『5円玉3枚、1円玉5枚』という有様でした。08年12月中旬には、東尋坊のパトロール体制を強化するように、(地元の)坂井市役所に要請をしたばかりです」
と嘆息する。さらに、
「『派遣切り』をされた人は、クビになった瞬間に『はい、死にます』となる訳ではありません。職を失ってから半年~1年、2年ともがき苦しんだ末に、決心して、ここまでやって来ています」
とも話す。
拓銀や山一が破綻した97年度末と似ている
「派遣切り」が08年後半から目立ち始めたことを考えると、「自殺志願者」が増える可能性は濃厚だ。さらに、
「運営は『持ち出し状態』で、保護すべき人が増えるほど、運営も厳しさを増していきます。公的支援が必要です」
と訴える。
一方、自殺対策に取り組む別のNPO法人「自殺対策支援センター ライフリンク」(東京都千代田区、清水康之代表)は、「生きるための支援策」を探しやすく設計した検索サイト「ライフリンクDB」を開設、反響を呼んでいる。
ライフリンクでは、現在の状況は、北海道拓殖銀行や山一証券が破綻するなどして自殺者が増加した97年度末と似ているとみており、清水代表は、
「対応が後手に回れば回るだけ(自殺者が)多くなりかねない切迫した状況だ」
と警鐘を鳴らしている。
同サイトは、当初09年春にオープンする予定だったが、金融危機の影響から、予定を4ヶ月早めて「いのちの日」にあたる08年12月1日に開設された。開設以来、サイトには1日あたり500ページビュー程度のアクセスがあり、マスコミ報道されたときなどは、その5倍程度に跳ね上がるという。