経済評論家やエコノミストのあいだで、「財政出動」をめぐる議論が活発になってきた。企業の生産調整や雇用削減の動きが激しさを増し、デフレスパイラルもささやかれる中で、麻生太郎首相はダボス会議で「事業規模で約75兆円の景気対策を決断した」と各国首脳を前に胸を張った。しかし、それだけ大規模な「財政出動」を実施して、果たしてどれだけの効果があるのか、疑問視する声も出ている。
景気回復へ争点は「財政出動」
総務省によると、2008年12月の完全失業率は4.4%と、前月に比べて0.5ポイント悪化した。非正規社員を中心とした人員削減が、正社員にも及んできたためだ。
また、経済産業省の08年12月の鉱工業生産動向(速報値、2005年=100)によると、生産動向指数は前月比9.6%低下して84.6。3か月連続の低下となったばかりか、下げ幅は統計上で比較可能な1953年2月以降で最大で、同省は「生産動向は急速に低下している」としている。
国際通貨基金(IMF)が発表した最新の経済見通しによると、2009年の日本の実質成長率はマイナス2.6%。ただ、日を追うごとに景気は悪化傾向を強めている。自動車や電機メーカー、金融機関などの08年4‐12月期の業績発表をみても、「赤字決算」のオンパレード。未曾有の深刻さだ。
景気回復のための経済政策として、政府から聞こえてきたのが総額75兆円という経済対策。こうした中で、経済評論家やエコノミストらが「財政出動」の効果について声をあげ始めた。
上武大学大学院教授で経済学者の池田信夫氏は2月2日付の自らのブログで、米ウォールストリートジャーナル(WSJ)に掲載された「ニューディール政策が景気後退を長期化した」とのCole-Ohanianらの研究を取り上げた。
それによると、米国が1930年末に大恐慌から回復した原因は1938年にニューディール政策をやめたためで、実証研究では1930年代の需要刺激策に効果がなかったことを示しているという。そのうえで「1990年代以降の日本のバラマキ政策の経験でも明らかだろう」と、財政刺激の効果を疑問視している。
早稲田大学大学院の野口悠紀雄教授もダイヤモンドオンラインの「未曾有の経済危機を読む」で、「変動相場制の下で財政支出を拡大しても、円高になって貿易黒字が減少するから、経済拡張はないことがわかる」と指摘する。
「仮に10兆円規模の経済対策を考えようが、効果は期待できない。ましてや、2兆円の定額給付金など、何の効果もないことがわかる」とバッサリ斬った。
「とにかく公共事業を増やして」という声も
もちろん、「財政出動」肯定派もいる。「財政出動すべき」と言い切るのは、「恐慌前夜」(祥伝社刊)の著者で常葉学園大学の副島隆彦教授。「小泉路線の改革派との対立もあって、2兆円(定額給付金)を通すにも四苦八苦しているが、とにかく公共事業を増やして、若い人に職を与えていくことが必要だ」と説く。
しかし、問題はいまの経済情勢を政治家がきちんと見極めていないことにある。国際金融エコノミストの枝川二郎氏は、「定額給付金の問題にしても、給付金をどのように配るのか、国民全員にきちんと行き渡るのかといった、議論の本質ではないところで盛り上がっている。一方、米国ではオバマ大統領が打ち出した公共事業を積極化する、財政出動への賛否について論争が続いている。WSJのような否定的な意見にも耳を傾けようという姿勢が、日本の政治家にはみられない」と指摘する。