江戸時代から続く「伝承薬」 薬事法改正で存亡の危機?

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   改正薬事法によって、風邪薬や胃腸薬など一般用医薬品は、インターネットや電話による通信販売で販売できなくなる見通しが強まっている。そうした事態に、関連業者は危機感を募らせている。中でも、数百年にわたり代々受け継がれている「伝承薬」は電話販売が多く、存亡の危機といっても過言でない。売上げの7割が通信販売という業者は「家業をたたまなければならない」と嘆く。

「倒産せざるを得ない」「『伝統文化』がなくなる」

   2009年6月1日の全面施行に向けて厚生労働省で検討が進められている改正薬事法。厚生労働省は2月6日、薬事法施行規則を改正する省令を公布した。風邪薬や胃腸薬など一般用医薬品(第2類医薬品)の販売方法を対面販売のみに規制するという項目が盛り込まれ、インターネットや電話で通信販売をしている業者は危機感を募らせている。

   数百年も前から変わらぬ製法で薬を作り続けている「伝承薬」の業者も例外ではない。伝承薬とは野草、木の樹脂や皮などの自然界の素材を用い、古くは江戸時代から飲まれてきた。一般の薬局やドラッグストアに置いていないため、遠方から電話での注文が多い。全国に200~300の伝承薬の業者があると言われ、ほとんどが小規模の家族経営だ。売上げの大部分が通販で、「倒産せざるを得ない」「伝承薬という『伝統文化』がなくなってしまう」といった声も上がっている。

   吉田松花堂(熊本県玉名市)は約200年間にわたり、食べ過ぎ、飲み過ぎ、下痢などの胃腸の症状に効く「諸毒消丸」を製造販売している。7代目の吉田順硯さんは、こう話している。

「寝耳に水です。省令案の検討会に伝承薬業者は1社も含まれておらず、08年9月に発表されて、そこで初めて通販が規制されることを知りました。うちは諸毒消丸しか扱っておらず、売上げの7割が通販です。規制されれば家業をたたまなければなりません」

県内薬局でも販売しているが、原料が高く、割引販売をするドラッグストアなどには置けないという。顧客は全国に5000人おり、電話で注文を受けて郵送している。注文の際には体調を聞き、飲み方や飲み合わせをアドバイスする。顔が見えないだけに、対面販売以上に薬剤の説明に気を遣っているそうだ。

「もっとも問題なのは、消費者の意見が反映されていないことです。最近テレビで報道されて初めて、『今飲んでいる薬はどうしたらいいんだ』という問い合わせの電話をいただくようになりました。しかしその数は少なく、使っているお客さんのほとんどが、(薬が買えなくなるかもしれないということを)何も知らないんです」

「薬を必要としているお客さんに届けられなくなる」

   これまで横のつながりがなかった業界だが、通信販売を主とする伝承薬業者35社による「全国伝統薬連絡協議会」が08年10月に立ち上がった。2週間に1度、厚生労働省に出向き、これまで5、6回の協議を重ねている。事務局の広報担当者は、

「私たちは自分たちの手で責任感を持って製造し、誰よりも薬を理解して販売しています。一方、省令案では『対面』か、そうでないかが焦点となっており、何が本当に大事なのかという点が見えていません。このままでは薬を必要としているお客さんに届けられなくなります。それだけは避けなければなりません」

と訴える。

   06年に埼玉県の少年が北九州市の薬局からインターネットで鎮静剤を大量に購入して自殺を図るなどのトラブルがあり、ネットでの販売規制支持が高まった。また、薬害被害者も規制に賛成している。全国薬害被害者団体連絡協議会は一般用医薬品のインターネット販売の禁止を求める要望書を、08年11月17日、内閣府に提出した。全国伝統薬連絡協議会は薬害被害者も含め、関連団体との協議の場を求めていきたいとしている。

   舛添要一厚労相は09年2月6日の記者会見で、同相直属の専門家検討会設置を正式表明した。検討会の初会合は2月中旬から下旬にかけて開催。ネットを通じた医薬品販売の在り方や、薬局や店舗で医薬品購入が困難な人への対応策を話し合う。メンバーは、規制賛成派、反対派を交えた19人。全国伝統薬連絡協議会からも1人が参加する。

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