みずほフィナンシャルグループ(FG)が2002年4月の発足以来、初の3首脳交代を発表した。金融業界の耳目を集めた人事だったが、ふたを開けると統合前の旧3銀行の勢力均衡を維持した「想定内」の顔ぶれだった。新首脳陣は金融危機の逆風に加え、「院政」を危ぶむ声もあり、波乱含みの船出だ。
旧3行でポストを分け合う「均衡人事」が継続
2009年4月からの新たな首脳人事は、持ち株会社のみずほFG社長に旧第一勧業銀出身の塚本隆史副社長が就任。持ち株傘下の二行は、みずほコーポレート銀頭取に旧日本興業銀出身の佐藤康博副頭取、みずほ銀頭取に旧富士銀出身の西堀利副頭取がそれぞれ昇格する。
現在の首脳もみずほFGの前田晃伸社長が富士銀出身、みずほコーポレート銀の斎藤宏頭取が興銀出身、みずほ銀の杉山清次頭取が第一勧銀出身と旧3行でポストを分け合ってきた。前田社長は「3行に人材が山ほどいる。その中で適材を選んだ。過去の名前は全部捨てた」と強調するが、業界では「みずほFGとみずほ銀の出身行を入れ替えただけ。新味はない」との陰口も叩かれている。
さらに業界で注目されていたのは斉藤頭取の処遇とその後継人事だ。 斉藤頭取は08年7月、民放女性記者との「密会」が写真週刊誌に報じられた。斉藤頭取はみずほコーポレート銀の投資銀行化を陣頭指揮したが、みずほFGはサブプライムローン関連で邦銀最大の損失を計上。旧興銀時代から大型のM&A(企業の合併・買収)の仕掛け人として知られ、実力者として君臨してきたが、「行内には敵も多く、求心力の低下は必至」との観測が流れていた。
また、斉藤頭取の側近とされる佐藤副頭取も「斉藤頭取のスキャンダルのあおりで首脳レースから脱落しかねない」との見方が浮上していた。ライバルと目されたのは、同じ興銀出身の小崎哲資みずほ銀副頭取で「小崎氏のバックには前田社長が控え、斉藤頭取の影響力をそぐ狙いから、前田社長は小崎氏をトップに起用する」との憶測も出ていた。
女性問題取りざたされた斉藤頭取の影響力衰えず
しかし、実際は、斉藤頭取は前田社長や杉山頭取と並んで、新設された会長ポストにすんなり就任が決まり、その後継も佐藤副頭取が昇格するという「無風」の人事。女性問題の報道後も斉藤頭取の影響力は衰えず、昨年暮れごろからはマスコミの取材にも積極的に応じるなど表舞台にも「復帰」していた。この背景として、みずほ関係者からは「前田社長は日本経団連副会長として財界活動に専念することしか頭にない」との解説も聞かれる。
もっとも、みずほ内には「みずほコーポレート銀が斎藤会長、佐藤頭取と「投資銀行化」の推進役2人に独占されてしまい、サブプライム損失の責任はどこに行ったのか」「佐藤頭取なら斎藤会長の院政は確実」との声も渦巻いている。みずほFGの2009年3月期決算は金融危機で大幅な業績悪化が避けられない見通しだが、新体制は危機に加えて人事の火種も抱えての出だしとなりそうだ。