衆院本会議の代表質問で田中真紀子元外相は麻生首相に対し、「今のままでは、ただ高そうな背広を着ているおじさんで終わる」と挑発した。この発言の是非はさておき、「なるほど高級そう」と感じた人は多いはず。「おしゃれ」だと、話題にものぼる首相のスーツとはどんなものか、どれほど高いのか、どんなこだわりがあるのか、「ファッションチェック」してみた。
3か月に1度、青山の老舗紳士服店で2、3着オーダー
ビジネス用では紺とグレーのスーツを好んでオーダーする麻生首相
田中元外相(65)は2009年1月29日、衆院本会議で行われた代表質問で麻生太郎首相(68)と初対決し、その中で「高そうな背広」発言が飛び出した。世論調査で支持率が急落している首相に、衆院解散、総選挙を迫ったものだ。
「高そう」といわれた麻生首相のスーツとは、一体どんなものなのだろうか。
首相は東京・青山の老舗紳士服店「テーラー森脇」に学生時代から45年間にわたり通っている。同店の店員は、
「3か月に1度の頻度でおいでになり、まとめて2、3着をオーダーします。直近では08年12月末にブレザーを仕立てにいらっしゃいました」
と明かす。
ビジネス用では紺とグレーのスーツを好んでオーダーするという。ストライプなど柄ものも選ぶ。ジャケットの形は「3つボタン中段がけ」(ボタンが3つあり真ん中だけを留める)、サイドベンツが好みだ。お値段は1着およそ30万円。プライベートでは紺とグレーのブレザーに、グリーンや赤などのタータンチェックのスラックスを合わせたりもする。
高そうなスーツだというのはテレビで見ただけで「なるほど」と納得するが、着こなしのうまさも目立つ。首相はトレーニングを続け、昔からほとんど変わらない体型を維持しており、スーツをきれいに着こなす努力も怠らないという。一方で、こんな裏技も使っている。
「スラックスの裾に重りを入れることで、前線がまっすぐに出て、後ろ姿もヒップと足のラインがきれいに出ます」
上着は肘から下が広がるように作られており、「人と違った形にしたい」という首相のこだわりを随所に取り入れているそうだ。
「今までの首相に比べて自信と知性を感じます」
ファッションデザイナーで日本メンズファッション協会理事長の池田ゆう氏は、麻生首相のファッションについてこう語る。
「おしゃれは言葉を使わないメッセージで、世界にメッセージを発信する首相にとって重要な意味を持ちます。今まで(の首相)は無難な服装が多かったですが、それに比べて麻生首相の服装からは自信と知性を感じます」
知性を感じるポイントは、「肩」と「ウエストライン」だという。肩はジャケットにきちんと収まっており、きれいな線が出ている。ウエストラインには「ドレープ」(布地にできるゆるやかなたるみ)ができて、体のラインが美しく現れている。
歴代首相に比べて群を抜いておしゃれに気を遣っている麻生首相だが、一方でこんな点が気になるという。
「専門家がスーツを見る時、スラックスに注目します。最近は細めで丈はやや短めが主流ですが、麻生首相の場合は裾が広がっているように見えて、古い印象を与えてしまいます。また、ネクタイの結び目にディンプル(結び目にできるシワ)ができていないのも気になりますね。細部までおしゃれに気を遣うことで、小さなところまでまじめにやっているという好印象を与えます」
テレビに映る時にもっとも目立つのは襟元だ。せっかく上等なスーツを着ていても、映し出されるのは上半身だけだったりする。
「首相は真っ白なシャツがお好きなようで、それ自体はとてもすてきだと思います。ただ、ちょっと糊づけされすぎているのか、硬いように見えますね。襟がもう少し柔らかなものだと、Vゾーン(襟元)の印象がもっと良くなるのではないでしょうか」
08年9月11日付け「産経新聞」に「自民総裁選『中身』と『外見』5氏チェック」と題する記事が載っている。ファッションデザイナーのドン小西氏が自民党総裁選各候補者のファッションチェックを行っている。麻生首相は淡いグレーのスーツに水色で袖と襟が白いシャツ(クレリック)、水色のストライプが入った紺のネクタイを合わせた。
「上着の袖をわざと短くしてシャツのカフスボタンを見せたり、クレリックのシャツを選ぶなど、トレンドに敏感な麻生さんらしいスタイルだね。普段から、足を長く見せるためにひざを絞ったり、上着のウエストを細くしたりと時代の最先端を意識している」
一方で、商社の課長クラスなら好感を持てるが、「一国の総理として考えたら少しやりすぎ」「ミーハーで貫禄がない印象となり、国民は逆に引いてしまう」とも指摘している。