麻生首相が2009年1月28日行った施政方針演説は、就任直後の演説とは打って変わって、民主党に対する対決路線を「封印」。「逆質問」で挑発する方式から、自らの考えを説く方式へと転換した。また、「政府は小ければ良いという訳ではない」とも述べ、小泉純一郎元首相が提唱した「構造改革路線」を見直し、距離を置く考えを示した。また、「派遣切り」が問題視されるなか、小泉路線を否定する動きが経済専門家にも出てきている。
「官から民へ」という流れを批判
麻生首相は冒頭、
「新しい世界をつくるためにどのように貢献すべきか。新しい日本をつくるために何をなすべきか。私の考えをお話ししたい」
と切り出した。08年秋の所信表明演説では、民主党の方針を質す「逆質問」が目立ち、「民主党」と言う単語が12回も登場した一方、今回の演説では1度も登場せず、事実上「封印」。民主党との対決姿勢よりも景気対策を優先したい考えを明らかにした。
さらに注目されるのが、
「『官から民へ』といったスローガンや『大きな政府か小さな政府か』といった発想だけではあるべき姿は見えない」
「政府の重点を生活者への支援へと移す」
といったくだりだ。この演説中には、雇用対策として財政出動を行うことや、労働者派遣制度を見直すことなどが打ち出されており、これまでの「構造改革路線」を支えてきた、緊縮財政路線や市場原理主義から大幅に距離を置いたものだ。新聞各社もこの点を大きく取り上げ、同日の夕刊を見ると、各紙が
「首相、構造改革と一線」(朝日新聞)
「首相施政方針 小泉路線から転換」(毎日新聞)
「消費税上げ 行革が前提 小泉構造改革を転換」(読売新聞)
などとトップ項目に掲げている。
このような動きは、「派遣切り」の問題などで、「構造改革路線を見直すべき」との声が高まってきたことを受けてのものとみられるが、小泉政権時代の「推進論者」は、どのように受け止めているのだろうか。
例えば竹中平蔵・慶應義塾大学教授は、1月18日にテレビ朝日系の討論番組「サンデー・プロジェクト」に出演。
「日本は、サブプライムの問題が顕在化する前から景気は悪くなり始めていたし、株価は下落を始めていた。それは、日本経済に構造的な問題があるから。それがボディーブローのように効いてきています」
「最大の要因は『小泉内閣以降、改革が進まなくなっている』というのが、世界に明らかになったということだと思います」
と持論を展開。「自らの『改革路線』を貫徹しなかったのが悪い」とでも言いたげな様子だった。