景気回復か、内部留保空っぽが先か――日本の輸出企業が崖っぷちに追い込まれている。世界的な金融危機で米ドルばかりか英ポンドも急落、日本円の独歩高が続いていて一向に収まりそうにない。オバマ政権の発足で「ドルが多少でも上向くのではないか」といった期待は裏切られ、円高は1ドル70円台、60円台も見えてきそうな気配が漂う。日本の輸出企業は絶滅寸前で、その姿は世界を席巻した「恐竜」の最後を思わせる。
「80円台の為替水準が続けば、経営はさらに厳しくなる」
米国の著名な投資家、ジム・ロジャーズ氏に「終わった通貨」と揶揄された英ポンドは、この1年間で対ドルや対ユーロで3分の1下がった。2007年7月には1ポンド215円に達していたものが、09年1月23日には史上最安値の118円台にまで下落したのだから、そう言われても仕方がない。
ロジャーズ氏によれば、「英国には売る資産もなくなった。ポンドは売り圧力にさらされる」とみている。さらに最近は英ポンドの急落でユーロも連れて下げていて、円は「独歩高」が際立ってきた。
オバマ大統領の就任に沸く米国、ニュージャージー州在住のあるエコノミストは、「1ドル60円」の可能性を示唆する。米ドルに英ポンド、ユーロも下落して、円が暴騰する「条件」が整っているからだ。
円高の影響は深刻さを増している。北米市場を中心に「世界」でもうけてきたトヨタ自動車やソニーなどの日本の輸出企業は、円が上昇するたびに収益をはき出して経営を維持しているようなもの。たとえば、トヨタは1円の円高で400億円、ホンダは200億円、ソニーも1900億円もの営業利益が目減りする。「80円台の為替水準が続けば、経営はさらに厳しくなる」(ホンダ)。
円高の進展は、企業の赤字幅が膨らんでいくことを意味する。トヨタのように12兆円もの内部留保があったとしても、それを取り崩して生き延びるしかない経営状況が続けば、そう遠くない時期に危機に陥る。
トヨタやソニーの赤字幅は広がる一方
世界中の、どの国も景気悪化が著しい。だからからといって、内需に目を向けても人員削減や賃下げの不安で消費者の購買意欲は上がらない。モノが売れなければ、企業の利益は上がらない。値下げが消費に結びつかなくなって、内需拡大どころか、今のままではデフレスパイラルが懸念される。
過去の円高局面で日本企業が行ったのは、商品の高付加価値化。自動車でいえば最新のエンジンの研究・開発だが、収益の低下でここまで資金が回らなくなっている。これでは消費を刺激することすら儘ならない。
もう一つは、海外進出。ホンダは現在も北米の販売台数の約8割を現地生産しているが、「従来から、できるだけ需要のあるところで生産する方針でやってきた。この局面で方針を変更する予定はない」(広報部)という。輸出ではなく、現地生産を強める企業はここ数年来増えているが、第一生命経済研究所の主席エコノミスト・嶌峰義清氏は、「いまの為替水準が続くようだと、さらに海外進出が増える可能性がある」と指摘する。
しかし、いまの景気悪化は世界中で起こっている。傷が浅そうな新興国への進出を強めようとしても、今度は他社との競争が激しくなって、これまでのような儲けは見込めない。 国内はもっと深刻だ。工場の海外移転がさらに進み、雇用機会が失われることで、国内消費はますます悪化。これでは八方ふさがりだ。