社員にうつ病を装わせ、社会保険事務所から傷病手当金をだまし取る「うつ病詐欺」が起きていたことがわかった。医師にうつ病と誤診させるための「マニュアル」もあり、同様の手口で計約5500万円をだまし取ったのだが、そんなに簡単にうつ病は偽装できるものなのか。
「相当な演技力があったのではないか」
「うつ病詐欺」を働いた会社は札幌市にある貴金属製造販売会社の「アクア」。秋田、青森、宮城、福島、栃木、東京に支店があるが、営業実態はなかった。06年2月から08年10月にかけ、知人ら計22人を支店長などに雇用、19人がうつ病と診断されたという。
この詐欺事件を手掛けたのは秋田県警。秋田社会保険事務局がこの会社に傷病手当66万円を08年5月に支給したが、その後に連絡が取れなくなったため県警に同6月に相談。県警が調査したところ、他の支店でも同様に傷病手当金を騙し取っていたことがわかった。県警はJ-CASTニュースの取材に対し、うつ病だと届け出た同社秋田支店勤務も容疑者(28)はうつ病を患ってはいなかった、と明かす。医師に誤診させるためのマニュアルのようなものも見つかっているため、会社ぐるみの犯行なのは明らかで、 「専門の医師を騙して診断書を書かせるくらいだから、相当な演技力があったのだろう」 と見ている。ただし、「うつ病ではない」と医師から診断書をもらえなかった社員もいるのだそうだ。
それではなぜ、うつ病が詐欺の「道具」になったのだろうか。県警はあくまで一般論としながら、
「うつ病とムチウチは医者泣かせと言われ、患者の申告に頼る部分があり、それを悪用したのではないか」
と話している。
医師は簡単に「うつ病」と診断する
秋田保険事務所に聞くと、傷病手当金給付の書類手続きが整っていれば、医師の診断については、
「疑う余地などはありません」
というのが実態だそうだ。
厚生労働省の調べによると、うつ病、躁うつ病の患者総数は99年の44万1千人に対し05年は2倍の92万4千人に増加。製薬会社ファイザーが12歳以上の一般生活者4,000人を対象に、07年2月7日から07年2月16日にかけて行ったインターネット調査では、「一般生活者の12%、約8人に1人がうつ病・うつ状態の可能性」があるという結果が出ている。精神科医・香山リカさんの著書「うつ病が日本を滅ぼす!?」によれば、現在の診断基準では、2週間以上「うつ」状態が続けば「うつ病」と診断していいことになっているのだそうだ。ある精神科医はJ-CASTニュースの取材に対し、
「患者から『私はうつ病です』と言われれば、医師は簡単にうつ病と診断し、薬を処方することが多くなった。それも日本でうつ病患者が増えている原因だ」
と打ち明ける。今回の「うつ病詐欺」も、こうした実情を知った上での犯行なのかもしれない。