「派遣切り」や正社員の早期退職が増え続けるなかで、自営業者や学生などが加入する国民年金制度に「崩壊」の危機が迫っている。国民年金の納付率が2008年10月末時点で59.4%と、60%を割り込む一方で、失業して国民年金に加入するものの、保険料が払えない人が急増しているからだ。社会保険庁は「きちんと払っている人の年金が減ることはない」というが、加入者が増えているのに保険料が入ってこないのだから、このままでは年金原資そのものが枯渇しかねない。
失業者は国民年金の対象者だ
景気の急速な悪化で、これまで企業の厚生年金に加入していた人が解雇されて失業するケースが相次いでいる。厚生労働省の調べでは、08年11月の失業者数は256万人で、前年同月に比べて10万人も増えた。
国民年金は、20歳以上60歳未満の日本に住所のあるすべての人が加入対象だ。次の就職先が見つからないと、失業者は国民年金の加入者対象になる。その場合、月額1万4110円の保険料を、配偶者の分も払わなければならないから、納付負担も倍増。納めたくても納められない人も出てくる。
こうした事態を見越して、国民年金には保険料の減免措置がある。半額納付などの一部免除から全額免除まで、所得水準によって定められていて、全額免除の場合は、単身世帯で年間所得が57万円以下(月額4万7500円)、4人世帯では162万円以下の人が対象となっている。
保険料の免除は、住んでいる自治体に、国民年金への加入変更手続きを行う際に加入者が申請しなければならない。ところが、減免措置があることを知らない人が多い。保険料の納付は2年間待ってもらえるが、加入手続きだけ済ませて、減免手続きをせず、さらに保険料を支払わないまま放置しておくと、将来もらえる年金額が減ることや、もらえなくなることもある。
202万人の保険料全額免除で「制度は破たんしている」
本来、年金は保険料を納めるべき人が納めなければ、年金原資は枯渇してしまい、きちんと納めていた人の年金の受け取りまでも危うくなってしまう。年金原資について、社会保険庁は「50年は積立金の運用でやっていけるよう制度設計している」という。保険料も2015年度には1万6380円に引き上がるので、「枯渇の心配は当面ない」と言い切る。
現在、国民年金の加入者は約2035万人(08年3月末、第1号被保険者)。このうち、失業などの理由によって保険料を全額免除してもらっている人は202万人、一部免除者は54万人に上る。
社会保険庁は、申請による保険料の全額免除者は06年度末に比べて約5万人減ったが、「いまの雇用情勢などを見ると08年度は増えるかもしれない」と話す。
同庁によると、もらえる年金は満額(納付期間40年)だと年間79万2100円だが、減免手続きをした人は減免を受けた期間によって異なり、たとえば1年間の減免期間あった人は、4か月分(未納期間の3分の1)を納めたこととして計算されるので、「満額」に比べて年間約1万3000円減額されるという。
国民年金は原資の3分の1を税金で補っているので、結果的に未納分を税金で負担しているのと同じことになる。
年金問題に詳しい中央大学の山田昌弘教授は、「徴収方法に限界がきている」と指摘する。国民年金は、元は自営業者のための年金だったが、そこに学生や非正規雇用者など収入がない人や不安定な人までも対象に加えることで加入者を増やした。それなのに保険料は一律徴収。保険料を納めることができる人が加速度的に減って、それによって原資も減る。「すでに制度が破たんしている」(山田教授)という。