春節(旧正月)前の大晦日にあたる2009年1月25日に、例年と同じように中国中央テレビ局では、日本の年末紅白歌合戦と同じ位置づけの「春節聯歓晩会」(春節の夕べ)を開催する。ところが、今年は番組に異変が起きている。中国では当たり前に行われていた「口ぱく」が当局のお達しで禁止されるというのだ。番組のゼネラル・プロデューサー秦新民氏は、「視聴者のみなさんはさぞびっくりするだろう」とマスコミに話し、中国芸能界は激しく動揺している。
「口ぱく」を紙メディアは一切報道せず
08年の「春節の夕べ」は映画俳優の章子怡氏の「天女、花散らし」からスタートした。もちろん「口ぱく」だった。超多忙の章氏は歌を練習する暇はなく、歌詞も覚えていなかった。もっとも、最初の2分ぐらいは、テレビを見る視聴者にもわからなかった。2分18秒ごろクローズアップされた章氏の口の動きは、歌詞とは全然関係ないことに、ほとんどの視聴者が気づいた。
章氏の後に出てきた歌手、有名演劇俳優なども「口ぱく」だった。「春節の夕べ」の「実況中継」は、録画放送とそれほど違わなかったわけだ。「口ぱく」に対してインターネットでの批判は厳しかったが、紙メディアは何も報道しなかった。
しかし、8月の北京五輪では同じ手法が通用しなかった。開幕式の中で、「微笑み天使」の林妙可ちゃん(9歳)の歌った「祖国賛歌」が「口ぱく」だった。この事実は世界中のマスコミに報道された。
北京五輪の広報部長である孫偉徳氏は、
「歌手は何人もいたが、最終的にもっとも声のいい人と、もっとも演出のいい人を芸術プロデューサーは選んだのではないか」
と記者の取材に答えた。「口ぱくは欺瞞ではないか」という質問には、「とくに問題はないと思う」と付け加え、ひんしゅくを買った。
「テレビの歌番組に失敗は許せない。音質にも厳しい」
08年11月に中国文化部はやっと重い腰を上げて、「口ぱく禁止の規定(案)」を出した。まだ案の段階だが、中国最大の「口ぱく」祭りである「春節の夕べ」もそれに該当するということになった。「本当の声でテレビ番組に出るなんか、国民は思いもかけないだろう」とプロデューサーの秦氏はいう。
テレビの目玉番組である「春節の夕べ」は、毎年数億人の視聴者を獲得している。ただ、最初から「口ぱく」をしていた訳でもないようで、1994年ごろには歌手の紅豆氏が出て、歌詞を間違った例もあった。その後は、どんな激しいアクションをしても、歌手たちは喘ぐことなく、平気に歌を歌った。
「春節の夕べ」は、「ずっとそうだった」と中央テレビ局のシニアプロデューサーの袁徳旺氏は明かす。
「テレビの歌番組は、普通の音楽会とは違い、失敗は許せない。音質にも厳しい。とくに春節の夕べのような番組は、本当の声で歌を歌うことなんかは絶対にありえない」
と袁氏は言う。
芸能界も動揺を隠せない。「口ぱく」だから、映画俳優でも、自作の歌の歌詞さえも覚えられない歌手でも、その番組に出て、立派に任務を完遂できる。こんな考え方が普通だった。本当の声で失敗したら、いままでの名声がすべて失われるのではないか。芸能界はそう心配している。
大晦日の「春節の夕べ」で、歌手は失敗連発、なんてことになるのだろうか。
(J-CAST 北京)