全国津々浦々にあるJA(農協)を傘下にもつ農林中央金庫(農林中金)が巨額の含み損を抱えて四苦八苦している。にもかかわらず、上野博史理事長の経営責任がうやむやになりそうだ。各都道府県にある信用農業組合連合会(県信連)やJAが出資することで賄う、いわば「身内」増資でピンチを逃れようとしているからだ。
傘下のJAに助けてもらうしかない
農林中金は2008年9月期にもの有価証券含み損を抱えた。このため、08年11月に1兆円を超す資本を「自力」で調達する方針を発表した。資金を出す肝心の県信連やJAの経営も厳しいが、「親」のピンチに、増資に応じるJAは結構出てきそう。増資が成功すれば、理事長らの経営責任も放免ということになりそうだ。
農林中金の2008年9月期の純利益は104億円で、前年同期に比べて92%も減少した。世界的な金融危機で保有している有価証券の価格が大きく下落、9月末の有価証券含み損は1兆5000億円に膨らんだ。損失の規模は国内金融機関で最大になる。
全国の農家がJAに預けた資金などを吸い上げて、国内外の株式や債券、証券化商品に幅広く投資する、「国内最大の投資銀行」である農林中金は、38兆8000億円もの預金量がありながら、貸出金は8兆8000億円しかない(08年9月末)。その残りを、さまざまな運用商品に投資している。経営破たんしたリーマン・ブラザーズにみられる欧米の投資銀行と同様に、債務担保証券(CDO)などへの積極投資が裏目に出て、資金を焦げ付かせた。
1兆円を越す増資について農林中金は、2009年1月15日のJ-CASTニュースの取材に、「増資の期限は3月末までなので、今まさに各JAで検討してもらっているところ」(広報課)と話す。
グループ内で資本を融通しあうのは本来「禁じ手」だ
金融機関の資本増強には「禁じ手」がある。金融グループ内で資本を融通しあうやり方で、共倒れにならないようにするために設けたルール、いわゆる「ダブル・ギアリング規制」がある。
そもそも外部から資金を調達せずに、グループ内で資本を持ち合うこと(ダブル・ギアリング)は、グループ内で資金が還流されるだけなので、結果的には財務基盤の強化にはならない。
農林中金と信連やJAのような「親子関係」にある協同組織金融機関の持ち合い基準は、信用金庫や信用組合の場合、「親」金融機関の資本全体の「20%未満」であれば認められる。ところが、農林中金の場合はこの基準の対象外なので、JAからいくらでも資本を調達でき、その分を自己資本としてカウントできるのだ。つまり、資本増強の効果は微妙だが、増資が成功する可能性はかなり高いと言っていい。
08年11月、巨額損失にもかかわらず理事長に高額報酬が払われていたことが明るみになったことや、改正金融機能強化法による公的資金の資本注入に、農林中金を対象に加えるかどうかで批判の矢面に立った上野博史理事長は、2000年から現職に就いている「長期政権」で、09年6月に任期満了を迎える。
農林中金は現在、上野理事長以下13人いる理事らの報酬を見直す方向で検討に入っていて、「3月までに決める」という。しかし、増資が成功すれば、公的資金の資本注入も必要ないし、経営責任が問われることもない。増資完了後の3月すぎの辞任説もくすぶるが、経営責任を追及する声はしぼんでしまいそうだ。