いわゆる「派遣切り」にあった労働者を支援しようと、年末年始に東京・日比谷公園に開設された「年越し支援村」をめぐり、思わぬ「場外乱闘」が発生している。坂本哲志総務政務官(自民、衆院当選2回)が、派遣村について「本当に真面目に働こうとしている人が集まっているのか」と苦言を呈したところ、野党が猛反発。翌日には、発言の撤回・謝罪に追い込まれた。ところが、ネット上では、「ホームレスと派遣の線引きはどうするのか」「本当に大変なの?」などと、発言を擁護する声もあり、坂本政務次官の「孤立無援ぶり」とは、少々様相が異なっている。
「戦術、戦略が垣間見えるような気がした」
派遣村は2008年12月31日から1月5日にかけて日比谷公園に開設され、主催者発表では499人が「入村」した。1月2日夜から1月5日朝にかけては、厚生労働省の講堂も寝泊まりの場所として開放された。
ところが、「閉村」とほぼ同時期に行われた坂本政務官の発言が、大きな波紋を呼んだ。坂本政務官は1月5日の総務省の仕事始めのあいさつで、
「年越し派遣村、日比谷公園の情景を見るとき、これは本当なんだろうか、本当に真面目に働こうとしている人たちが、こうやって日比谷公園に集まっているのかなぁ、という気もいたしました」
と、「派遣村」のあり方について疑問を呈した。さらに、
「(集まった人が、厚生労働省の)講堂を開けろ、もっといろんな人が出てこい(と言っていた)。何かしら、学生紛争の時の『学内を開放しろ』『学長出てこい』という戦術、戦略が垣間見えるような気がした」
と続けた。これに対して野党側は一斉に反発。例えば、翌1月6日朝のTBS系情報番組「朝ズバッ!」に出演した共産党の穀田恵二国対委員長は、発言を引き合いに
「本当に国民が苦しんでいる、ということに心を寄せていない内閣」
と批判。連日、派遣村を応援に訪れていた社民党の福島みずほ党首も、同番組中で
「自殺を図って、お巡りさんに助けてもらって派遣村に来た人もいる。もちろんホームレスの方もいましたけど、その(ホームレスになる)前に雇用を失っている。派遣切りの人も一定(数)いるんですよ。あの発言の『この人たちは働く気があるのか』というのは絶対に許せない。みんな『命をつなげるか』というレベルで生きているんです」
と、語気を強めた。
この数時間後には、坂本政務官は記者会見を開き、
「関係している多くの皆様方に、色々ご不快な面、ご迷惑をおかけいたしました。昨日の発言を撤回させていただき、そして、皆様方にお詫びを申し上げたいと思っております。 本当に申し訳ありませんでした」
と、あっさり発言を撤回し、謝罪した。河村建夫官房長官も、記者会見で
「職を失って本当に困っておられる実態があるということを考えますと、不適切であると、私もそう思いました。政府の一員としての発言でありますから、十分そうした配慮が必要だということは注意をさせていただいた」
と述べ、与野党ともに「不適切」との見解で、坂本政務官は、「孤立無援」同然の状態に見える。
「派遣村、継続や移転すべきでない」が71.34%
ところが、ネット上に目を転ずると、若干様子が異なるようなのだ。
例えば、ライブドアが1月4日にサイト上で始めた「派遣村、継続や移転すべき?」というテーマのアンケートでは、1月6日18時現在で約6万1000件寄せられている回答のうち、「するべき」との回答は28.65%なのに対し、「するべきでない」は71.34%。寄せられたコメントの内容を見ても、派遣村に否定的なものが多い。例えば、
「ホームレスと派遣村の住民(?)と、どこで線引きするのでしょうか?」
「より好みしなければ、仕事はある。 バイトはイヤ、派遣はイヤ、終身雇用がいいなど言って働かない人を支援する必要があるのでしょうか?」
といった具合だ、もちろん、派遣村は雇用不安を背景に設けられたという背景があるだけに、
「人間生きている中で困っていることがあったら、支援しなきゃいけないしボランティアをする時は何らかの行動を起こさないと何も始まらない」
「国の政策の失敗です」
「セイフティーネットが準備されなかった政府の無策の結果。 企業が雇用責任を全うしなかったことの結果」
と継続的な支援が必要だとする声もある。
また、2ちゃんねるなどのネット上の掲示板を見ても、ライブドアでの投票と同様、「派遣労働者以外が『派遣村』に流入しているのではないか」「本当に生活できないのか」といった指摘が目立つ。
ヤフーの「みんなの政治」の政治家データベースでも、坂本政務官に対して多数のコメントが寄せられている。内容は、発言をすぐ撤回したことに対する批判や、発言の内容に対する批判も多いが、
「せっかく、すばらしい発言をしたのにもう撤回とは」
「普通に働いている者からすれは『その通り!』と言いたくなる」
と、発言自体には共感を示す同情的な声も散見され、賛否両論といったところだ。