「紙」にしがみつくほうが日本の新聞長生きできる
(連載「新聞崩壊」第8回/評論家・歌田明弘さんに聞く)

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   危機を迎えつつある新聞業界は、「ネット化」に向けて突き進むべきか、それとも、もうしばらくは紙媒体に踏みとどまるべきなのか。「インターネットは未来を変えるか?」などの著書があり、ネットと既存メディアとの関係についての考察を続けている評論家の歌田明弘さんに、インターネットが新聞経営に与えた影響と、今後の見通しについて聞いた。

――いつ頃から、「ネットは新聞経営に影響を与える」という印象を持ち始めたのですか。

歌田   ネットで無料でニュースが読めるようになった時点で、どうなるのかなと思いましたね。ニューヨーク・タイムズは、「ウェブ・メディアの登場をほうっておけば、アメリカの新聞収入の屋台骨のクラシファイド広告(求人などの小広告)が奪われる」というレポートをコンサルタント会社から受けとったことをきっかけにサイトを立ち上げた。なぜやらないといけないかについての経営的な理由がはっきりしていた。日本の新聞社は、なぜネットメディアなのかということが、経営的にはあまりはっきりしていなかったのではないでしょうか。

新聞社の危機はネットメディアの現状と表裏

新聞社のネット事業展開の可能性について語る歌田明弘さん
新聞社のネット事業展開の可能性について語る歌田明弘さん

――「新聞離れ」が指摘されますが、新聞の読者が「ネットに移った」のでしょうか。それとも、単に「読まなくなった」のでしょうか。

歌田   私は出版社出身ですが、毎月4000円の出版物を買ってもらうのは至難の業です。新聞を購読しているのは当たり前みたいな感覚があったときにはあまり考えずにとってもらえたかもしれませんが、90年代以降、家計がどんどん苦しくなり、支出を見直す必要が出てきて、しかもネットでニュースを手に入れるという代替手段があったとなれば、苦しくなるのは当然です。

   いまは苦しいのは新聞社だけではないので、新聞業界以外の人間にとっては「ネットの登場で苦しい業種がもうひとつ出てきた」ぐらいのことともいえるわけですが、新聞社がなくなることが社会にとってどういう意味を持つかが重要ですね。

   新聞社が倒産しても、同じような機能をネットメディアが担うのであれば、社会のダメージはそれほどないともいえるわけです。しかし、少なくとも日本では、さしあたりそう簡単に移行が成立しないのではないかと思います。

――新聞の評価すべき役割を挙げるとすれば、どのようなことですか。

歌田   やはり、社会に緊張感をもたらしているところでしょう。大上段に言えば、「権力の監視」ということになるわけですが、いろいろな軋轢が生じるにもかかわらず、それを社会的な使命だと思って追及し、正確さも損なわないようにするというのはかなりたいへんなことです。あらためてそういうと「そうかな」と思う人もいるかもしれませんが、新聞社以外の人はじつはあまりよくわかっていない。そこがそもそも問題といえば問題です。

   新聞社のほうは、当然そうしたことは理解されているはずだと思っているのかもしれませんが、そうではない。

   「ブログもジャーナリズム」といった議論がよくされていますが、ジャーナリズムのひとつだと思ってブログを書いている人もいるでしょうけど、そう言われると戸惑う人も多いでしょう。アメリカの場合は、ブログが物書きのデビューのための装置として機能しているところがあると思いますが、日本はあまりそうなっていない。無償の行為であれば、リスクを負うことまで求めるわけにもいかない。「私のブログはジャーナリズムだ」というのは自由ですが、そうであれと要求するのは要求しすぎ、というところもあります。

   また会社組織であっても、ネットメディアは経営基盤が弱いところも多いので、取材などにお金をかけたり人手を割いたりすることもできず、多くのリスクを負って記事を書くこともしにくい。新聞社の危機というのはネットメディアの現状の問題と表裏になっているのだと思います。

――元ライブドア社長の堀江貴文さんは、「自分でメディアを立ち上げる」と宣言したことがあります。ネット上で、新聞社や通信社に代わるような動きが出てくると思いますか。

歌田   ネットでやろうと思ったら、お金儲け以外のモチベーションも必要でしょう。堀江氏の場合は、「ちょっと一泡吹かせてやろう」みたいな山っ気があったから自分でニュースをやろうと思ったのかもしれませんが、ただ儲けたいだけなら、新聞社みたいなことをネットでやるよりもほかのことを選ぶのではないでしょうか。

   もちろん、かつて経営的な問題はともかく新聞を発行し始めた人たちがいたように、やる人が出てこないというわけではないでしょうが。
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