インターネットやテレビ・ショッピングといった通信販売で利用されている「代引きサービス」が利用できなくなるかもしれない。そんな規制を検討しているのは、金融庁の金融審議会決済に関するワーキング・グループだ。「消費者保護」を唱える金融庁に、宅配業者や通販業界、百貨店、さらには経済産業省や国土交通省までもが猛反発。2008年12月10日で終了するはずの議論は越年した。いったい、金融庁は何を考えているのか。
背景には銀行界の事情があった
金融庁の決済ワーキングは、電子マネーなどの新たな決済手段などのありかたについて総合的に検討している。問題は「為替取引に関する制度の柔軟化」の議論で起こった。騒ぎのきっかけは「代引きという仕組みは為替の一種ではないか」としたこと。利用者保護の観点から銀行並みの規制と監督が必要とする銀行界の意見を金融庁が採用した形だ。つまり、「為替取引」をコンビニなどにも適用し、業者を金融庁の監督下に置こうとしたのだ。
背景には銀行界の事情があった。為替取引はどうしても「死守」したい業務だからだ。融資が伸びず、「貯蓄から投資へ」の流れのなかで、基本的には預金も減少基調にある。収益源がなくなるなかで「為替取引」による手数料は収益を生む銀行固有の業務なのだ。
これに対し宅配業者や通販業者、百貨店やコンビニエンスストアらが猛反発。日本通信販売協会は12月9日付で金融庁に反対意見書を提出。「消費者にも利便性が高く、20数年間もなんの問題もなく行われているサービスを新たに法規制の枠組みに組み入れることは、企業の事業創出の意欲を失わせることにもつながる」としている。
宅配便のヤマトの金融子会社・ヤマトファイナンスの芝崎健一氏も、「世のため、消費者のために、代引きサービスには金融業としての規制をかけるべきではない」と、審議会の場で訴えた。
国土交通省も後押し。自動車交通局貨物課は「審議会では、代引きサービスがあたかも宅配便大手だけが行っているかのような印象があるが、中小運送業者も提供しているのが現実。一斉に法的な網をかけるようなことになっては、その存続すら危ぶまれる」といい、実態を知らなすぎることに怒りを隠さない。
「為替制度からは除外する案が有力になってきた」
通販で商品を購入する人は増えている。日本通信販売協会の調べでは、2007年度の売上高は3兆8800億円で、前年度に比べて5.4%の伸びだ。そのうち、代引きを利用している人の割合は33.8%。次いでコンビニでの支払いが23.6%だった。
代引きサービスが「為替取引」となれば、犯罪収益移転防止法が適用され、家に届けられた商品が10万円を超えると免許証などの本人確認ができる証明証を、本人が宅配業者に提示しなければ、商品は渡してもらえない。家族が代わりに受け取ることもダメ。受け取るためには委任状が必要だという。消費者にとっては、とんでもなく面倒になる。
宅配業者らの猛反発に、既存のコンビニ収納や宅配業者の代引きサービスは「その他の資金移動サービスとして、為替制度からは除外する案が有力になってきた」(前出の銀行関係者)という。銀行界の目論見は崩れた形だ。