「変態記事」以降も毎日新聞の「ネット憎し」変わっていない
(連載「新聞崩壊」第3回/ITジャーナリスト・佐々木俊尚さんに聞く)

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トップダウンでやれるところじゃないとダメ

――新聞とネットの距離感はいかがでしょうか。何らかの形で折り合いをつけないといけないと思いますが…。

佐々木   米国でも、オンラインで成功しているのはウォール・ストリート・ジャーナルぐらいですが、一般紙というよりは専門紙です。ニューヨーク・タイムズも減収で、日本の新聞社がこれからどういう方向に進めばいいのかというお手本となるべき新聞社が存在しない。国内に目を転じると、産経新聞のiza!は素晴らしいソーシャルメディアで、現場が「自分の記事が得体の知れないブロガーの記事と並列されるのが許せない」と、猛反対だったなか、社長の鶴の一声で開発が決まったものです。でも現状では新聞社の収益下落を救えるほどのパワーはない。ソーシャルメディアは儲からないんですね。あれが儲かれば、みんなが見習って、日本のメディアがソーシャルメディア化していくんでしょうけれど…。

――産経新聞のネットの取り組みはすごいですよね。

佐々木   ウェブ・ファースト(紙よりも先にウェブに記事が載る)ですし、会見全文を載せたり、裁判のライブ中継があったり…。一度掲載された記事が消えないのも魅力ですね。

――裁判のような長い記事でも、比較的読まれているそうです。

佐々木   その対極を行くのが、(記事読み比べサイトの)「あらたにす」。「サマリーだけウェブに載せて、本文は新聞で」という発想ですが、逆ですよね。ウェブの方が容量は多いんだから。

――今後、新聞社のネットに対する考え方は変わると思いますか?

佐々木   何らかのターニングポイントが来るのではないでしょうか。いまだに「インターネット世論は世論ではない」と思いたがっていますが、インターネット世論が世論だと言わざるを得ない局面が来る。そうなると、韓国みたいな状況がやってくる。一時はネット世論が権力を握るというところまでいったわけですから。ただ、韓国は行き過ぎて、ネット世論が肥大化してしまい、ネットの世論がリアルの世論と直結してしまった。その結果、「ネットで誹謗中傷を書かれて自殺」みたいなケースが頻発しました。さすがに日本のインターネットはそこまでの状況は作り出さないと思いますが、しかしどのような将来が待ち受けているのかは、まだわからないですね。

――毎日新聞にも、何らかの変化が起こる可能性はありますか。

佐々木   トップダウンでやれるところじゃないとダメだと思いますね。古い大きな組織なので、無理でしょう。山本七平の名著「『空気』の研究」じゃないですけど、社内を「空気」が支配しちゃっている。没落のスピードが速すぎて間に合わない(苦笑)心配もありますね。

佐々木俊尚さん プロフィール
ささき・としなお 1961年、兵庫県生まれ。フリージャーナリスト。愛知県立岡崎高校卒、早稲田大政経学部政治学科中退。1988年、毎日新聞社入社。岐阜支局、中部報道部(名古屋)を経て、東京本社社会部。警視庁捜査一課、遊軍などを担当し、殺人や誘拐、海外テロ、オウム真理教事件などの取材に当たる。1999年にアスキーに移籍し、月刊アスキー編集部デスク。2003年に退職。著書に「ウェブ国産力」、「ネット未来地図 ポスト・グーグル時代 20の論点」など。

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