駒澤大学がデリバティブ取引などで154億円の損失を出したことが波紋を広げているが、損失に苦しんでいるのはここだけにとどまらない。複数のメディアが「各大学の損失一覧」を掲載しており、金融危機の影響は、大学業界にも広く及んでいることが分かる。特に、ダントツの評価損を抱えているのが慶応大学で、その額は225億円。それに対して、早稲田大の評価損は5億5000万円で、同じ有名私立大でも、明暗が分かれた形だ。
駒澤大学では損失問題で理事長が解任
慶応大の08年度の決算に注目が集まりそうだ
08年11月、駒澤大学が金利スワップ・通貨スワップのデリバティブ(金融派生商品)取引で損失を出し、12月に理事長が解任されるまでの事態に至ったのは記憶に新しいところだ。
ところが、この問題を抱えているのは、駒澤大学に限った話ではない。例えば慶応大学が公表している07年度の決算書には、07年度末時点で有価証券等評価損が225億5500万円あることが明らかにされている。さらに、同年度の消費支出として「資産処分差額」54億5600万円を計上。そのうち「約49億円は、金融資産の評価替えによるもの」と説明している。
それでは、他の大学の状況はどうか。東洋経済新報社「金融ビジネス」08年秋号に掲載されている特集では、私立大学の「有価証券評価損ランキング」(07年度末時点)が掲載されている。ランキングは、私立大学へのアンケート結果を集計したものだが(57大学が回答)、1位にランクインしたのは慶応大で、2位は立正大学の9億7000万円。3位が駒澤大学の8億2000万円だ。他の東京6大学(国立大の東大を除く)を見ると、上から法政大学(22位、8億7000万円)、早稲田大学(25位、5億5000万円)、立教大学(39位、評価益1500万円)、明治大学(53位、同4億6000万円)という具合だ。
駒澤大は、この半年強で損失が大きく膨れあがった形だったことが浮き彫りになっている一方で、やはり慶応の損失額の大きさが際だつ。
慶応大では、具体的な金融商品の内訳などは明らかにしていないが、同誌のアンケートに対しては、社債や再建とデリバティブを組み合わせた「仕組み債」、投資信託、株式、ヘッジファンド、REIT(不動産投資信託)、ベンチャーキャピタル、コモディティー商品などを保有していることを明らかにしている。
早稲田大は「低リスク」で運用
他大と比べても、慶応が扱っている金融商品のバラエティーの豊富さは群を抜いている。例えば、評価損が5億5000万円にとどまっている早稲田大は、ブルームバーグの取材に対して
「(07年末の時点で)運用資産は約1000億円で、政府保証が付いている格付けの高い外債を中心に運用している」
などと回答、運用の対象を比較的絞っていることが伺える。
慶応大は前出のブルームバーグに対して、
「現時点(08年11月)での評価損は225億円で2008年3月末決算から変わっていない」
としている。ただ、同大はJ-CASTに対しては「額は日々変動しているので、年度中の額はお答えしかねる」と、報道内容を否定した。たが、東証に上場する株式の時価総額を見ただけでも、08年3月末の時点では396兆円あったものが、11月末時点では275兆円。約3割も目減りしている。株式市場が上向かないことには、評価損を回復するのは困難な情勢だ。
今後、慶応大は「損切りするのか」または「金融商品を持ち続けるのか」の決断を迫られることになる。
なお、慶応大が創立150周年事業のために集めた募金は、08年12月22日現在で272億円。仮にこのまま評価損が損失として確定するとなると、寄付金の大半が吹き飛んでしまう形だ。
慶応義塾広報室では
「長期保有・満期保有を行うことで、元本の確保をはかっていきたい」
と話しており、「損切り」の方向性を否定している。09年春の決算発表では、在学生に対してはもちろん、全国に29万人以上いるとされる卒業生など、関係者に対する説明責任が問われることになりそうだ。