民主党はすでに記者会見を非クラブ加盟社外にも開放
――記者クラブ制の改革の面でも、経営サイドが熱心に取り組んでいるようには見えませんね。
上杉 先ほども触れた通り、日本の新聞社の経営者は記者出身です。彼らは記者クラブにどっぷりつかった上で、それなりに活躍をしてきました。クラブにもいろいろありますが、ライバル会社同士なのに仲良しというのも珍しくありません。すると、彼らにとっては、自分の成功体験・人生と記者クラブが重なってくるのでしょう。クラブを否定することは、自分たちの人生を否定することにつながる、という感覚なんでしょうね。
――記者クラブ制に問題があるのでは、ということは以前から漠然とは言われていました。著書の中で今回、具体的に問題点や現状を指摘されました。クラブの内側の人たちからの反応はありましたか。
上杉 若い記者の人たちから大きな反響がありました。自分もクラブ制度に疑問を感じていると。OBの人たちからは、「オレたちの頃よりひどくなってるな」という感想が寄せられました。昔はメモ合わせなんてしてなかったそうです。こちらから言わせれば同じ穴の狢なのですが。なによりも一定の年齢より上の現役の人たちは「上杉、許せない」と言っているようです。直接の抗議はないのですが、私の記事や著書に対し不満を持っている人は相当数いるな、と実感しています。逆に、政治家や官僚からは「よく書いてくれた」という反応が多いです。思うところがあるのでしょう、「あいつら、やっぱりおかしいだろ」と言いたかったようです。
――以前、首相の会見を記者クラブ主催ではなく、官邸主催にしたらどうか、と官邸側に持ちかけたことがあるそうですね。
上杉 官邸主催の話は、うまくいきませんでした。しかし、実は民主党は、岡田克也幹事長時代から記者会見をクラブ加盟社以外にも開放しています。それまで国会内控え室でやっていた会見を、党本部でするようになったのです。雑誌記者やフリーも入ることができます。ところが、私の知る限り新聞はこのことを1行も報じていません。長野県や鎌倉市でクラブが開放されたときは大騒ぎしたのにもかかわらずです。民主党番記者でも知らない人が多く、私が教えるとびっくりしていました。もちろん民主党職員でも知らない人がいたくらいです。
一度開いたものを閉じると相当な批判があります。よって、民主党は、もう閉じられないのです。総選挙の情勢はまったく分かりませんが、仮に民主党が政権を取った場合、民主党が記者会見をクラブ会員だけに限定する、今の記者クラブシステムと同じでやる、というのは難しいと思います。問題は、権力側から記者クラブ開放を実現されてしまう形になることです。そんなことになる前に、自分たちの力で自らクラブ開放をすべきではないか、と言ってるんですが。
――内閣記者会の反応はどうですか。
上杉 無視ですね。問題が存在してないことになってますから。
――今後、記者クラブはどうなっていくと予想しますか。
上杉 約150年前の日本は鎖国状態でした。地政学的に可能だったわけですが、交通手段の発達により、結局、日本は鎖国体制の放棄をせざるを得なくなりました。他業種が世界標準という荒波にもまれる中、これまで日本のメディアは日本語というバリアに守られてきました。だがそうした日本語という障壁による鎖国システムも限界に来たようです。ネット上の翻訳ソフトの発展には目覚しいものがあり、すべて正確、という訳にはいきませんが、「大体の意味は分かる」というレベルには達していて、情報によってはそれで十分だ、という場合もあります。
また、米大統領選のときオバマ候補へ世界中から寄付が集まった背景の一つには、SNS(ソーシャル・ネットワーク・サービス)のフェイスブックの活用がありましたが、これは英語だけでなく、アラビア語や韓国語などほとんど全ての国の言葉で変換して参加できるような仕組みになっています。
こうした現実をみていると、記者クラブが存続する可能性はどんどん狭まっています。日本語というバリアが崩壊に向かっていると感じています。そのときになって外資メディアが乗り込んできて、仕方なく記者クラブを開放するよりも、自ら変わる方が生き残る可能性が高いと思います。新聞社が経営的にやっていけなくなる、という危機が到来する中、記者クラブだけが残っても意味はないですからね。実際にどこか1社が倒れて、というショック療法で記者クラブ制度が崩れていく、というのは十分考えられます。
メモ:記者クラブ制度
1890年、帝国議会の取材を求める記者たちが「議会出入り記者団」を結成したのが始まりとされる。官庁や警察、地方自治体など各地に存在し、日本新聞協会加盟の新聞社やテレビ局が加盟している。記者会見などを主催し、加盟社以外の会見への出席は拒否するなどしている。日本新聞協会の「編集委員会の見解」によると、記者クラブは、公的機関などを継続的に取材するジャーナリストたちによって構成される「取材・報道のための自主的な組織」だ。さらに「情報開示に消極的な公的機関に対して、記者クラブという形で結集して公開を迫ってきた歴史がある」と振り返っている。「『開かれた存在』であるべき」「外国報道機関に対しても開かれており」などともうたっている。これに対し、上杉隆さんは、著書「ジャーナリズム崩壊」の中で、「ほとんどブラックジョークと見紛うほどである」と批判している。
上杉隆さん プロフィール
うえすぎ たかし 1968年、福岡県生まれ。NHK報道局やニューヨークタイムズ東京支局の取材記者を務める。鳩山邦夫衆院議員の公設秘書も経験。現在フリーのジャーナリストとして主に政治分野を取材している。著書にベストセラーとなった「官邸崩壊」や「ジャーナリズム崩壊」などがある。