「日本は重要なマーケット。中核事業は売却しない」
米金融大手シティグループ傘下の日興シティホールディングス(HD)のダグラス・ピーターソン会長兼社長は2008年12月17日、主要メディアの前でこう語った。シティは米政府から約450億ドル(4兆3000億円)という巨額の公的資金を注入されたのと引き換えに、世界の各拠点でリストラを進めており、日本事業も再編が注目されていたが、日興シティHDトップが売却を否定した格好だ。だが、証券業界は「米シティの意向で再編はあり得る」(大手証券)との見方は崩していない。
日興コーディアルと日興シティ合併延期に憶測
日興シティHDが、日興シティ信託銀行の売却を決断したことで、日本事業の中核となる個人向けの日興コーディアル証券、法人向けの日興シティグループ証券の売却観測が強まり、ピーターソン会長の発言が注目されていた。
三菱UFJ信託銀行への売却が決まった日興シティ信託銀について、ピーターソン会長は「日興シティ信託銀は同業他社と比べてシェアが小さく、成長させるのが難しかった」などと売却を決めた理由を述べた。
焦点の日興コーディアル、日興シティグループの両証券については、「日本事業を進めるために売却はしない。この方針は、米シティとも協議している」などと述べ、市場で浮上した売却観測を強く否定した。米シティの意向によって両証券が売却される可能性を指摘した質問については、「憶測についてはコメントできない」と述べるにとどめた。
ただ、日興コーディアルと日興シティグループの両証券を09年3月までに合併させる計画は延期に。この決定に対して、市場では「売却しやすくするため、合併を延期したのではないか」(大手証券)との見方も浮上した。ピーターソン会長は「市況や技術的な問題を考慮した結果」と説明したが、記者懇談会後も再編観測は依然としてくすぶったままだ。
「日本事業の先行き分からないのがはっきりした」
「ピーターソン会長が自ら説明し、日本事業には変化がないことを伝えてもらいたい」(幹部)との意向で企画された記者懇談会だったが、ピーターソン会長に対するマスコミの印象は良かったとは言い難い。ピーターソン会長が懇談会に約10分遅刻した上、約1時間のうち45分間は、米シティや日興シティHDの実情を語るよりも、「サブプライム問題とは何か」との「ご高説」の講義に費やしたため、「今さら、一般的なサブプライム問題を説明されても困る」という批判の声が挙がった。
参加した記者からは「ピーターソン会長が語っても、米シティの意向によっては、日本事業の先行きが分からないことがはっきりした」と受け止められたのが実情で、日興シティの狙いは、未完に終わったようだ。