前回の小口無担保ローンの件ではいろいろとコメントをいただいた。厚く御礼申し上げたい。しかし、わたしの文意が必ずしも正しく伝わっていない面もあると感じたため、今回は前回の補足をしておきたい。
上限金利下がって得する人いない、という事実
(1)金利の上限が下がったからといって、今までより安い金利で借りられるわけではない
上限金利が下がって得する人はいない。たとえば、年利30%弱の金利で何とか貸してもらえる程度の返済能力の人。こういう人は、年利の上限が20%に下がると借りることができなくなる。貸金業者は年利20%で貸しても十分儲けが確保できる人にしか貸さないからだ。貸してくれる人がいなくなったこの人はどうすれば良いのか?
これは、最低賃金を上げることによって生じる問題と似たところがある。最低賃金を仮に一時間2000円に上げたら、みんな豊かになる・・・わけはない。これは容易に理解していただけると思う。このようにハードルを過度に高くすることで、今まで何とか凌いできた人の生活を破壊する。これは非人道的な所業であり、ほとんど犯罪行為だ。
(2)年利30%で借りられる人はそれなりの信用力(返済能力)のある人だ
仮に1年以内に10人の借り手のうち1人の割合で返済不能になるとしよう。9割の確率で返済できる人というのはそんなにひどい状態とは言えないかもしれないが、こういう人は年利30%では借りられない。年利30%を徴収する貸金業者にとって10%の貸倒れコストというのは大きすぎるからだ。年利30%で借りられる人というのは、1年以内に貸倒れが数十人に1人程度しか起きないような人、つまりまずまず世間並みの信用力のある人に限られる。
消費者金融の典型的な借り手とはこういう人だ。「定収入があるが、病気、家族、冠婚葬祭・・・の事情で、ある月にどうしても数万円の資金が赤字になる。そこで、次の給料日までの1週間だけ数万円を借りる」。このように少額・短期間の借り入れであれば金利はたいしたことはないし、返済の確実性もかなり高い。
米国の「ペイデイ・ローン」は年利600%もある
逆に言うと、「返済能力が不確実で長期間借りたい」という人に対しては、貸金業者はたとえ年利30%であっても貸すことはできない。貸金業者もビジネスなのだから、返済能力に欠ける人に「高利で無理やり貸し込む」ようなことを、まともな業者がするわけがない。むしろ、上限金利を下げ過ぎたことにより、悪徳業者が入り込むスキをつくってしまった、というのが今の実態だ。
米国で日本のサラ金に似たものとして、「ペイデイ・ローン」というのがある。これはペイデイつまり給料日に返済させるというローンだが、年利に直すと400%とか600%といったとんでもないものも多く(「トイチ」よりも高い!)大きな社会問題となっている。あるいは日本でも質屋で借りた場合は担保付きにもかかわらず年利109.5%まで認められている。
筆者の常識からすると、これらの年利100%超というのはさすがに高すぎだと思う。そこには無知な消費者につけこんで金利をたくさん取ってしまおうという魂胆がうかがえる。
しかし、現在の小口無担保融資の上限金利(年利)20%というのはあまりにも低く、結果として短期資金を必要とする多くの個人や零細企業を干あがらせることにつながっている。
政府は銀行の貸し渋りに対して「断固たる措置で望む」と言っている。しかし弱者を最も苦しめている貸し渋りは小口無担保融資での非現実的な金利制限によって生まれたものだ。政治家の猛省を促したい。
++ 枝川二郎プロフィール
枝川二郎(えだがわ じろう)国際金融アナリスト
大手外資系証券でアナリストとして勤務。米国ニューヨークで国際金融の最前線で活躍。金融・経済のみならず政治、外交、文化などにもアンテナを張り巡らせて、世界の動きをウォッチ。その鋭い分析力と情報収集力には定評がある。