地上波テレビ放送の完全デジタル化に向けた動きが、正念場を迎えつつある。民放連会長など「推進側」の関係者は、「アナログ波の停波は2011年に予定通りに行う」と強気だが、景気後退の影響もあって、対応受信機器の普及は遅れ気味だ。米国や韓国では、完全デジタル化を当初予定よりも延期したという経緯があるだけに、今後も一波乱ある可能性もありそうだ。
普及率は半年で3.2ポイントしか伸びていない
政府の計画では、2011年7月にはアナログ波は完全に停止することになっており、この日までは、すでに1000日を切っている。ところが、この実現に疑問符がつくような動きがくすぶっているようなのだ。
例えば、政府や放送業界では、北京五輪で新型テレビへの需要が伸びることを期待して、08年9月末の時点で、デジタル対応受信機の世帯普及率が50%にするという目標を設定していた。ところが、実際の数字は46.9%。世界的な景気悪化で、消費者の購入意欲にブレーキがかかったことが、予想値を下回った主な原因だとみられている。
08年3月時点での普及率は43.7%だったので、普及率は半年で3.2ポイントしか伸びていない。仮にこのペースが続くとすれば、アナログ波が停波しているはずの11年9月時点でも7割弱しか普及していないということになる。
送信する側は、08年末時点でカバー率が96%に達する見通しだが、受信側は、この3年弱で大幅に普及ペースを上げる必要がある。
放送のデジタル化を進めている他国に目を向けてみると、実際に、デジタル放送への「完全移行」を延期する例が目立つ。米国では06年末の切り替えを目指していたが、これを09年2月に延期。韓国でも、07年4月になって、当初は2010年12月末に設定した切り替え期限を、2年間延長することが発表されている。いずれも、理由は「対応受信機の普及の遅れ」。特に韓国では、「アナログ放送停止は、2015年まで延びるのでは」との声もある。
それでも、日本国内の放送関係者は、あくまで強気だ。広瀬道貞・日本民間放送連盟会長は、08年10月28日、
「今や、アナログ波停止の心配をする必要がなくなったと確信している」
と延べ、切り替えを断行する意思を示した。
アナログ・デジタル同時放送延びると大幅コストアップ
一方、広瀬氏は、08年11月の記者会見では「(停止を延長するための)法改正の時間がない」とも述べている。それ以外にも、「放送局のアナログ設備更新が、停波を前提に計画されている」という事情もある。つまり、現状のアナログ・デジタルの同時放送の期間が延びると、テレビ局にとってはコストアップに直結する。業界にとっては「もう、停波はやめられない。後戻りはできない」というのが内実だ、との見方もできそうだ。
そうなると、問題になってくるのは、アナログ波が停波したあとの「テレビ難民」の発生をいかにおさえるかだ。
総務省では、09年度からの2年間で計400億円を投じて、生活保護世帯120万世帯に、デジタル放送受信用のチューナーを無償配布することになっている。さらに、政府・与党は08年12月になって、チューナーの対象をNHK受信料の全額免除世帯(障害者世帯など260万世帯)に広げる方針を打ち出し、さらに200億円を投じることになる見通しだ。
総務省は08年6月時点で、「地デジの完全移行に必要な予算規模は、今後数年間で2000億程度」との見通しを示しているが、このとおり計画が進むかどうかは不透明な情勢だ。