企業の業績悪化の影響で、派遣労働者の契約を途中で打ち切る「派遣切り」が相次ぐ中、居酒屋チェーンやタクシー会社などに人材を募集するところがたくさん出てきた。農業や介護などでも人手不足の傾向が続いている。厚労省では「肉体労働がきつくて、給料が安い仕事が敬遠され、人手不足になっている」といい、どうやら「どこもかしこも全く仕事がない」ということでもないようだ。
モンテローザやMKタクシーなど人材確保に動く
居酒屋「白木屋」「魚民」などを展開するモンテローザは2008年12月19日、雇用調整で失業した派遣社員や正社員を対象に、全国で最大500人を同社の正社員としてあらたに雇用する、と発表した。採用職種は居酒屋でホールやキッチン業務を行う店長候補で、年齢や経験は問わない。同社は「年間100店舗をあらたに出店する予定で、店長候補として人材を確保するため」と説明しており、「派遣切り」などが多い地域で有能な人材を確保する構えだ。
08年12月に入ってからは、MKタクシーが、従業員を1年間で1万人増員する計画を発表している。九州のタクシー会社も大量採用の方針を明らかにしている。ほかにも名乗りをあげた会社があり、企業がリストラをすすめる一方で、「有能な人材を獲得するチャンス」と見て、あえて採用を増やす企業が一部で出てきているようだ。
厚生労働省が発表した2008年10月の一般職業紹介状況によると、10月の有効求人(8~10月に有効の求人)は前月に比べ2.1%減っている。求職者1人あたりの求人数を示す有効求人倍率は0.80倍で、前月を0.04ポイント下回った。正社員の有効求人倍率はさらに低くて0.52倍となり、前年同月を0.10ポイント下回っている。
これだけ見ると「仕事がない」という雇用情勢の悪化が見て取れるかたちだが、一部では、「人材不足」を意味する、有効求人倍率が1倍を超えている職業もある。医師、歯科医師、獣医師、薬剤師(6.05倍)、保健師、助産師、看護師(2.4倍)、医療技術者(2.04倍)で、主に医療関係で人手が足りていない。ホームヘルパーなどの介護関係職は2.36倍だった。また、「接客、給仕」が3.08倍、保安の職種4.16倍、ドライバー1.27倍と、人手不足は深刻だ。
大分の農業現場では「全般的に人手が足りない状況が長年続いていた」
厚生労働省職業安定局雇用政策課はJ-CASTニュースに対し、
「求人数は増えていないが、肉体労働がきつく、給与が安い仕事は敬遠され、結果的に人手不足になっているようだ」
と指摘する。
大分市は、JAおおいたと連携して、農業生産現場で失業者50~60人のパート従業員を確保する失業対策を打ち出した。大分キヤノンや東芝大分工場で働く非正規社員が大量に解雇されていることから、市がおおいたJAに働きかけて実現した。
おおいたJA大分市地域本部は、「全般的に人手が足りない状況が長年続いていた」としており、市園芸畜産課によれば、キヤノンの工場などに「もっといい仕事がある」ということで、長続きせずに辞めていくケースも多かったという。市では今回の失業対策は、人手不足の解消の機会になるとも考えているようだ。
市園芸畜産課の担当者は、
「これまでは、農家が求人情報を掲載してもなかなか人が来ないという現実があった。探せば、人手不足のところがある。全く仕事に携われない人に、農業の仕事をして頂き、人手不足を少しでも補えれば」
と話している。