ソニー社長がマスコミとのインタビューで、雇用より会社がつぶれないことを優先することを明らかにした。株主利益も考えた経営判断だが、正社員削減まで踏み込んだことに、「国際企業として、違和感はない」と評価する声も出ている。
「経営の立場からは株主の期待にこたえよということ」
朝日の中鉢良治社長インタビュー記事
「私は、今回の人員削減に、違和感がないんですよ」
ソニーが全世界で約1万6000人ものリストラを発表したことについて、ある経済ジャーナリストはこう語る。金融危機を発端にした大不況で、日本では、派遣社員ら非正規労働者の首切りが連日報じられている。ところが、ソニーは、削減の半分は正社員としており、このジャーナリストにとっては、ソニーのような国際企業では当然の雇用調整に映るからだ。
「アメリカの企業なら、好景気でも余剰人員を削っています。国際企業なので、当たり前の感覚なんでしょうね。日本では、ソニーは一歩踏み込んでいると思います」
その感覚を持つのか、ソニーの中鉢良治社長は、その後のマスコミインタビューで、雇用より会社防衛を優先したことを明かしている。
「雇用を優先して損失を出すことが、私に期待されていることではない」
朝日新聞の2008年12月17日付記事によると、中鉢社長は、同紙インタビューにこう答えたというのだ。さらに、「経営の立場からは株主の期待にこたえよということ。問われているのは経営者が最善の努力をしたかどうかだ」とも明かしている。
終身雇用を守ってきた日本では、異例の株主寄り発言だ。このことについて、経済ジャーナリストは、「ソニーは、国際化するのが最も早かったからでしょう。今後は、ほかの日本企業にも出てくると思いますよ。アメリカのように経営者の報酬が高くなって、株主寄りになっていることもあります。だから、株主の要求が厳しくなっているんですよ」と解説する。
「短期的な利益最大化へとシフトしがち」
ただ、日本では、正社員の雇用調整に時間と金がかかるというネックがある。終身雇用制度自体が変わらないためだ。
ジャーナリストの財部誠一さんは、日経BPネットの2008年12月12日付コラムで、正社員を一方的に解雇できない労働法制を批判。倒産の危機であっても、割増退職金を払う希望退職の募集しかできないのはおかしいとして、セーフティネット構築と合わせた法改正を唱える。「需要急減時の雇用調整は世界の常識だ」として、このままでは「激しい国際競争にさらされている日本企業が、いずれ日本を見捨てるのではないか」と指摘している。
しかし、株主利益重視の雇用調整に、欠点がないわけではない。前出の経済ジャーナリストは、「短期的な利益最大化へとシフトしがちで、社員のモチベーションが下がったり、リストラで技術が伝承されなくなったりする弊害もありえます。社員を守ることにはメリットもありますし、ケースバイケースですね」と話す。
ソニーの中鉢良治社長は、朝日とのインタビューでは、リストラを進めるだけでなく、テレビやゲームなど赤字でも成長が見込まれる分野には積極的に投資する考えを示した。これに対し、経済ジャーナリストは、「具体的にどういう製品を売るかについての方針がありません。薄型テレビは売れなくなっているのに、競争の激しいところで勝てるのか、技術や製品の方向性が見えてこない。長期的戦略も持ち合わせないと、社員のモチベーションが下がり、投資家もゆくゆくは評価しないことになるでしょう。コストカットして、お金を編み出すだけではダメなんですよ」と手厳しい。
雇用をどういう場合に守るかなど、今後は幅広い議論が求められている。