2009年1月5日にはじまる「株券の電子化」。期日までに家庭などに眠っている、いわゆる「タンス株」を一掃しなければならないのに、それがまだ100億株も残っている。タンス株が放置されると、保有している株主にも、株券を発行している企業にもいいことはないが、どうも個人投資家は腰が重たい。「株を売るつもりがないので、電子化の必要がない」という投資家もいるという。
株を売るつもりのない投資家にはメリットわかりにくい
「株券の電子化」の旗振り役である証券決済制度改革推進センターによると、2008年3月末時点で、紙の株券を保有していた投資家は自治体や金融機関、事業会社などを含めると597億株もあった。そのうち文字通り、家庭のタンスに入りっぱなしになっているタンス株は約128億株。「株式の電子化」の開始まで1か月を切ろうという11月末で、まだ約100億株も残っている。
同センターでは、「企業の保有分はほとんどゼロでしょうが、個人分は一向に進まないようです。おそらく、保有している株を売るつもりのない投資家には電子化のメリットがわかりづらいんでしょう」と、推測している。
株券の電子化は、投資家には保管・管理の手間が省けて紛失や盗難の心配がなくなり、企業側も株券の発行に伴う印刷代や印紙代が削減できたり、合併などの際には株券の回収・交付の手間が省けたりする。また、証券会社も株券の管理や運搬代がいらなくなるといったメリットがある。
便利なはずなのに、タンス株がなかなか減らないのは、遺産相続時に名義を書き換えなかったケースや、しばらく株式投資から離れていて株券をしまい込んだことを忘れていたり、紛失してしまったりしているケースが少なくないからだ。
「タンスに入れっぱなしにするくらいだから、ふだんあまり売買しないため、そもそも電子化への関心が薄い」(中堅証券の証券マン)との指摘もある。
こうした、長期保有を目的に売却するつもりのない個人投資家は株券を保有したまま、あえて「動かない」という。上場企業が株主の権利保全のために株主名簿管理人(信託銀行)に「特別口座」を開設するので、名義さえ本人のものであれば手元に株券を保有したままでも問題はないのだ。
証券決済制度改革推進センターは、「それ(特別口座)を見越して、電子化に応じない人は少なからずいるでしょうね」と話す。
株券の電子化しないと「不利」で面倒になる
株券の電子化に応じない場合でも、持っていることが「違法」というわけではなく、所有者本人の名義に書き換えておかないと、後日名義の書き換えで面倒が生じたり、株式を売りたいタイミングで売れなかったりする。
なかには「株券を記念に持っていたい」という個人投資家がいるとのことで、こうした場合も投資家の権利は信託銀行の「特別口座」に記録されている。もちろん、手元の株券にはなんの経済的価値もない。
こんな個人投資家に困惑するのは上場企業だ。「特別口座」にかかる費用は企業が負担する。タンス株が多いほど、企業の負担が大きいことになる。
12月12日をタンス株の持ち込み期限としている三菱UFJ証券は、11月にはじまった日本証券業協会のテレビCMの効果もあってか、「夏場に比べて1日2、3倍は持ち込まれているようです」(広報室)と、駆け込みの対応に追われている。「12日までに持ち込んでもらえれば、責任をもって1月5日のスタート時に間に合わせます」という。
たとえば名義を書き換える場合でも、遺産相続によるものであれば相続証明の手続きが必要になるなど手間がかかるので、早めに手続きを終えることで当日はスムースに移行しようというのだ。
名義の書き換えをしないまま、株券の電子化を迎えた場合には、名義株主と株券を提出し忘れた株主が共同で請求する方法や、1年以内に株券と受渡証明書などの書類を提出する方法など、「救済」措置がある。
では、「売らない」と決めてタンス株のままにした投資家が、どうしても売りたくなったらどうなるのか――。「特別口座」では株式の売却ができないため、証券会社に口座を開設し、信託銀行に株式の振り替え指示をする。そうすれば、売却できる。