MKタクシーがぶち上げた1年間で1万人の雇用計画が、波紋を呼んでいる。失業者の受け皿というのだが、不況で利用客が減っているとあって、その実現性を疑問視する向きもある。「単なるパフォーマンス」との批判が出ているが、MK側は「うちはまだ車の数が足らず、増やすのは可能だ」としている。
「市民権を得ようとする単なるパフォーマンス」
MKタクシーの公式サイト
正社員まで首を切られる深刻な不況の中で、それと逆を行く仰天ニュースが2008年12月11日、タクシー業界から飛び出した。
低料金などをうたい文句にしているMKタクシー(京都市)が、3050人の従業員をなんと1年間で3.3倍の13050人にまで増員するというのだ。それに伴い、京都や東京など5都市から、福岡や札幌など5都市にも営業を拡大し、車両数も1523台から5932台に増やすという。その理由について、同社の経営企画部では、「雇用悪化の中で、うちができることはないかと考えました。そこで、これまでの増員計画を前倒ししたわけです」と説明する。
とはいえ、不況でタクシー利用が低迷しており、供給過剰で運転手の待遇悪化さえ問題になっている。そんな中で、本当に実現の可能性はあるのか。
連合系労組の全自交労連では、その根拠は乏しいとみる。書記次長は、こう話す。
「以前も、東京で大規模な増車の計画や京都でも路線バス参入話などがありましたが、結局できませんでした。高賃金をうたいながら運転手に負担があったりして、業界では信用されていません。このご時世で、金融機関でも金を貸すところは少ないでしょう。まゆつばものですよ」
労組では、待遇悪化問題をどう改善するか、頭を悩ませているという。それだけに、書記次長は、「その課題に逆行する話で、無責任ですね」と批判。同社の狙いについて、「マスコミ受けして、市民権を得ようとする単なるパフォーマンスですよ」とみている。
「進出地域では、車の数が足りないぐらい」
MKタクシーの増員計画について、国土交通省の旅客課では、「実現できるかどうかは、事業者の判断ですので、お答えしづらい」とする。しかし、同省では、供給過剰を問題とみて、減車調整を可能にする再規制の法制化を2009年秋にも予定している。それだけに、こう苦言を呈する。
「需要喚起策があるのならいいですが、むやみに運転手を増やして、過剰供給に拍車をかけるとしたら問題があります。運転手の給与低下につながる可能性があるので、慎重にやってほしい」
法人や個人のタクシー業界では、車が増え過ぎたとして、規制緩和見直しの要望のため署名活動をしている。これまでに、約80万人が集まったという。これに対し、MKタクシーは逆に、再規制に反対して署名活動を行い、2008年11月11日には、約53万人分の署名を国交省に提出した。今回の増員計画について、同社では、1年後の再規制前に事業を拡大しようとした狙いもあることを認めている。
増員計画発表後は、MKタクシーには、応援メールが数件来ているだけで、今後応募が増えるのかは把握できていないという。しかし、経営企画部では、増員の見通しなどについてこう説明する。
「うちでは利用客からの指名が多く、進出地域では、車の数が足りないぐらいです。利用の半分以上は、指名なんですよ。空港型乗り合いなどの新サービスで、需要も開拓しています。ある程度の台数がないと、利用客に便利ではないので、その点からも規模の拡大は必要です。求人誌の広告やハローワークなどを通じて、運転手らを募集します。国交省の許可のめどがあると考えており、金融機関も実績を見て受けていただけるはずです。サービスや運転手待遇の悪化はないと思っています」