米国発の金融危機の影響で、中小・零細企業が資金繰りに窮している。年末になって、銀行の貸し渋り批判が強まっているが、これまで中小・零細企業のピンチを救ってきた「小口金融」が機能不全に陥っていることが、この冬の寒さをいっそう厳しいものにしている。
以前は、消費者金融や商工ローンの貸出金利の上限は年利29.2%だった(いわゆるグレーゾーン金利)。しかし、2006年12月以降は貸出金の元本が10万円未満は年利20%、10万円以上100万円未満なら年利18%、100万円以上なら年利15%が上限とされた。
世間では大いに誤解があるようだが、上限金利を年利20%以下に下げることは「百害あって一利なし」である。トイチ(10日で1割、つまり年利365%)は言語道断だが、少なくとも年利30%くらいの水準は小口の無担保ローンの金利として国際的にも普通に受け入れられており、問題視する必要がない。
実は銀行の送金手数料のほうが高い
上限金利を下げたことによっていろいろな問題が起きているが、その中で最大の問題は消費者金融会社が信用力(返済能力)の劣る人に貸さなくなることだ。これは当然だろう。貸し手である会社からすると、年利29.2%を取ることでぎりぎり諸経費(すなわち貸倒れコストと事務処理コスト)をまかなってきたとしたら、同じ信用力の人に年利20%で貸せるはずがない。つまり、信用力の劣る人をいよいよ窮地に陥れる結果となるのだ。
それに、消費者金融は通常は少額で短期間の借入れであることを忘れてはならない。消費者金融会社でカネを借りる人は数万円程度を数日から数週間程度借りるのが一般的だ。「年利29%」などという見かけに惑わされると実態を見誤る。
仮に5万円を年利30%で10日間借りたとすると利息は411円、つまり元本の1%未満である。この負担が軽いとは言わないが、これで当座がしのげるとすれば仕方ない程度の負担ではなかろうか。
ちなみに、大手銀行で他行宛てに3万円未満の現金を送金したときの手数料は420円だから、前述の利息とほとんど変わらない。しかし、大手銀行の他行宛て送金はたとえ1000円を送るのでも、常に420円かかるのだから送金手数料のほうがよほど割高だ。
本当に必要な人にお金がまわることを考える
では、今後規制をどのように改変すれば問題は改善するのか?
(1)上限金利を借入期間に応じて定める。短期の場合は高めに、長期の場合は低めに設定すればかなり実体に見合ったものになると思う。あまり厳しく金利を制限するのは個人的には問題だと思うが、たとえば2週間未満では50%以下、逆に3か月以上では20%以下・・・などとすればよいのではないか(数字はあくまで仮定のものである)。
(2)高い金利で長い期間借りたら、どれだけ金利が膨らむかについて国民にもっともっと理解させる努力をする。テレビのコマーシャルでは「返済を計画的に」などと言っているが、「計画的」などという抽象的な表現ではピンとこない。複利によって雪だるま式に返済額が増えていくようすを中等教育から、じっくり時間をかけて教える必要がある。
命の次に大事な財産を守るためには、消費者が賢くならねばならない。ちなみに、タバコには「喫煙によって肺がんで死ぬリスクが増えます」といった文章が包装の主要な2面にそれぞれ30%以上の面積を使って表示することが義務づけられている。消費者向けの高金利の貸し出しの場合にも、似たようなウォーニングを義務づける必要があるかもしれない。
経済の仕組みを理解せず「高金利は悪」ばかりを唱える法律家や政治家が、改正貸金業法という法律を通したおかげでおかしなことになった。この法律は「金利の負担を軽減させよう」という彼らの親心がなせるものかもしれないが、善意だからといっていい結果を生むとは限らない。
これにより中小・零細企業の経営者が資金繰りに困り、ひいてはマクロ経済にも悪影響を与えている。われわれは本当にお金が必要な人たちに、いかにお金をまわせるようにできるか、をまず考えるべきである。
++ 枝川二郎プロフィール
枝川二郎(えだがわ じろう)国際金融アナリスト
大手外資系証券でアナリストとして勤務。米国ニューヨークで国際金融の最前線で活躍。金融・経済のみならず政治、外交、文化などにもアンテナを張り巡らせて、世界の動きをウォッチ。その鋭い分析力と情報収集力には定評がある。