新聞12紙とテレビ局23局、大リーグのシカゴ・カブスなどを傘下に持つ米メディア企業、トリビューン社(シカゴ)が、破産申請に向けて準備を進めている、と米ウォール・ストリート・ジャーナルが報じた。従来から資金繰りに苦しんでいたことに加え、「劇的」に広告収入が落ち込んだことが、今回の事態をもたらした模様だ。「ここ数ヶ月で、数紙が破産申請するのでは」との声もあり、まさに米新聞業界は存亡の危機に立たされているとも言えそうだ。
ここ数ヶ月で、数紙が破産申請に追い込まれる?
この破産への動きは、ウォール・ストリート・ジャーナルが2008年12月7日(現地時間)にウェブサイトで報じたもの。トリビューン社が今週にも、日本の民事再生法にあたる、連邦破産法第11条の申請を行う方向で準備を進めているのだという。同紙では「新聞業界の苦境ぶりを示したものだ」などと評した上で、
「業界関係者は、『ここ数ヶ月で、数紙が破産申請に追い込まれるのでは』とみている」
と、今後の見通しを伝えている。
同社は、ロサンゼルス・タイムズ紙やシカゴ・トリビューン紙などの大手紙も所有。当事者の一つとも言えるシカゴ・トリビューン紙も、この件を報じている。同紙によると、同社は、すでに適用申請の相談役として投資銀行の「ラザード」、法律事務所の「シドニー・オースティン」と契約したという。
経営悪化が続いていた同社は07年12月、不動産王のサミュエル・ゼル氏がLBOで買収し、株式を非公開化。それ以来、特に資金力が低下し、7000万ドル(65億9000万円)の無担保債務の返済期限が12月8日に迫っていたことが、今回の破産申請を検討するきっかけになったとの見方も出ている。それ以外にも、09年6月までには、5億1200万ドル(477億4000万円)の債務返済が控えてもいる。
トリビューン社の広報担当者が同紙にコメントしたところによると、
「先行きが見えず、困難な状況。まだ何の決定も下しておらず、あらゆる選択肢を視野に入れている」
と、しばらくは沈黙を続けたい様子だ。
「広告費に回すカネがない、という広告主が沢山いる」
資金繰り悪化の主な原因とも言えるのが、広告収入の急激な落ち込みと、米国を襲っている金融危機だ。
同じくトリビューン社が所有するロサンゼルス・タイムズ紙では、この側面に触れている。同紙では、トリビューン社の幹部が
「ここ数週間で収入が劇的に落ち込んだ。現段階では広告費に回すカネがない、という広告主が沢山いる」
と、背景を解説。さらに同幹部は、
「まだ(破産に至るまでには)何段階かある。会社や、従業員を含めたあらゆる利害関係者にとってベストな結果をもたらすための、あらゆる選択肢がある」
と、今後の見通しについては慎重な姿勢だ。
さらに、ニューヨーク・タイムズは、資産の売却に向けての動きが頓挫したことを指摘。トリビューン社は、シカゴ・カブスとその球場、地元ケーブルテレビの株式などの売却を目指している。同紙によると、売却が実現した際は10億ドル(931億5000万円)以上の売却益が得られるとされ、同社の資金政策を支えるとみられていた。本来ならば、商談は野球シーズンが終わるまでにはまとまるものとみられていたが、金融市場が厳しさを増し、事実上の足踏み状態が続いている。
トリビューン社傘下の新聞社以外でも、状況が苦しいのは同じだ。例えばニューヨーク・タイムズが08年10月に発表した08年7~9月期決算では、純利益が前年同期比51.4%減の650万ドル(6億1000万円)にまで減少しており、紙面を小さくし、記者の削減を進めるなどしている。また、クリスチャン・サイエンス・モニターは09年4月からオンライン版に移行することになっている(週末版は紙でも売り出す)。「ウィークデイは紙媒体からは撤退」ということになるだけに、業界には衝撃を与えている。
構造的な広告不況という面では、日本の新聞業界も同様だ。世界的な景気悪化の影響で、日本の広告市場はさらに落ち込むのは確実とみられ、日本でも新聞の「倒産」が現実のものとなりつつある。