2008年も残りわずかになったが、中小企業の年末の資金繰りは例年以上に深刻だ。中小企業主力の日本政策金融公庫の「セーフティネット貸付」に経営者や個人事業主などが殺到、10月末の融資実績は中小企業事業貸付が前年同月比2.6倍増の463億円に達した。国民生活事業貸付も同1.3倍増えて951億円。直近の決算が赤字であっても事業継続が可能であれば融資を受けられるので、取引銀行から融資を断わられた経営者などが駆け込んでいる。
「資金繰り」電話相談に1日100件以上
年末を迎えて、銀行の貸し渋りが目立ってきた。中小企業庁が設置した「年末資金繰り支援の電話相談窓口」には、1日100件以上の電話が鳴り続けている。中小企業庁金融課は、「関係省庁や都道府県を入れると、かなりの数になっているはず」と話している。
金融庁の「金融円滑化ホットライン」に寄せられた「貸し渋り・貸し剥がしに関する情報」によると、7-9月期の相談件数は103件。その後は現在集計中だが、「増える傾向にある」という。
日本政策金融公庫は2008年12月6日から、中小企業などの年末の資金繰りを支援するため、土・日曜日も電話で融資相談に応じている。政府系金融機関が不況対策で土・日曜日を返上するのは、山一證券や北海道拓殖銀行が経営破たんした1997年以来、11年ぶりのことだ。
同公庫によると、「セーフティネット貸付」の10月の融資実績は、中小企業事業貸付が463億円、国民生活事業貸付は951億円だった。07年度のひと月あたりの平均融資額が、中小企業事業貸付383億円、国民生活事業貸付628億円なので、これを大きく上回っている。11月末時点は現在集計中だが、「さらに増えていると聞いている」(広報部)という。
政府・日本銀行の対策で資金は中小企業に回らない
一方、米国発の金融危機に伴う株価の下落で、銀行の財務内容は急激に悪化している。9月中間期決算では軒並み減収減益、保有する債券や株式の評価損が拡大し、不良債権処理費用がかさんで自己資本が目減りした。
銀行は自己資本比率を維持するため、企業への融資を縮小する必要がある。「貸し渋り」や「貸しはがし」をしなければならないわけだ。
貸し渋りをやわらげるため、政府・日本銀行も手を打った。10月末に政策金利を0.2%引き下げたにもかかわらず、11月下旬になると金融機関間の資金を融通する金利が利下げ前を上回って推移。資金が逼迫したため、日銀があわてて3兆円程度の資金を用意して、動揺する金融機関を落ち着かせた。
しかし、こうした努力も「効果はわずか」(東京都内の信用金庫)という声は少なくない。多くの中小企業取引を抱える信用金庫や信用組合はもともと銀行間取引市場に積極的でないため、日銀が供給した資金が行き届かないからだ。
たとえば、信用組合は日銀と直接取引していないため、全国信用協同組合連合会を介さなければならない。本来、ニーズが最もあると思われるところに資金が十分に回らない。上から水を流しても、結局、末端の中小企業にも資金は行き渡らないわけだ。
いま、銀行や信用金庫が熱心に推進する信用保証協会の保証付き緊急融資にしても、金利は年2.0%程度(融資期間が5年以内の場合)と低いが、保証を受けられなければ融資もダメだ。「セーフティネット貸付」の利用者には、こうした民間金融機関で融資を受けられなかった中小企業が含まれている。
東京都内の信用金庫は、「われわれは中小企業を相手にしている。そこに貸し出さなくては儲ける先はない」と、「門前払い」を否定する。しかし、融資を申し込んできた企業が5年後に経営改善の見込みがあったとしても、銀行は政策公庫のように「待って」はいられない。不良債権が増えては、また自己資本比率が低下してしまうので、「銀行は不良債権を増やすようなことはしないし、バランスシートの改善を優先する。おのずと、融資を抑えることになる」(前出の信金幹部)。
いずれにしても、中小企業に資金は回らない。