被告人の人格に届くように言葉に魂を込める
検察側は懲役5年、罰金10万円を求刑する一方、弁護側は「被告自身も父親から暴力を受け、売春をして生活費を稼いでいた。十分反省している」として執行猶予を求め、即日結審した。
異例の初公判での「一喝」ぶりに、地元和歌山のメディアは12月4日夕方から夜にかけて、この裁判について大きく報じ、注目が集まった。ただ、今回の杉村裁判官の言動は、ただ「キレた」という訳ではなさそうなのだ。
杉村裁判官は、前任地の徳島地裁では裁判員制度のPR役を努めており、06年5月、朝日新聞の司法制度改革についての連載で、自らが判決を下す時に何を心がけるかを明らかにしている。当時の記事によると、杉村裁判官は、量刑の内容を被告・被害者に納得してもらえるように努めているといい、
「法廷では、自分の言葉で語る努力をしている」のだという。さらに、
「ありきたりの言葉は、被告人は聞き飽きている。被告人の人格に届くように言葉に魂を込める。『反省している』という言葉が本心からかどうか、自分の言葉でぶつかれば分かる。その手応えは量刑を決める際に考慮する」
とも話し、自分の「魂を込めた」言葉に対する被告の反応を、量刑にも反映させていることを明らかにしている。
その具体例を見てみると、例えば07年6月、徳島市内で5歳の男の子を連れ回したとして未成年者誘拐の罪に問われた男性被告(27)の論告求刑公判で、被告が警察官を目指して専門学校に通っていたことが明らかになった際に、杉村裁判官は
「人の気持ちが分からないと、出来ない仕事だ」
と厳しく指摘している。この裁判では、検察側が「短絡的で自己中心的犯行」として懲役2年を求刑する一方、弁護側は「軽率な行為だが、被害者を傷つける意思はまったくなかった」として、寛大な処分を求めた。被告は法廷で涙を流し、傍聴席に対して深く頭を下げた。
これに対する判決は、「懲役2年、保護観察付き執行猶予4年」。杉村裁判官は、
「長時間にわたり男児を連れ回し、帰りたいという男児を無視するなど、犯行態様は無責任極まりない。軽い気持ちで男児を連れ回したのかも知れないが、誰がどういう思いをするのか、自分に何が悪かったのか、人間として抜け落ちている部分を補ってほしい」
と、保護観察を付けた理由を説明した。
今回の和歌山の裁判では、被告は法廷に泣き崩れ、犯行を後悔しているようにも見える。注目の判決は、12月25日に言い渡される見通しだ。