名門大学も巻き込んだ「大麻汚染」騒ぎに、海外メディアや日本のブロガーらから異論が出ている。大きな犯罪でなく、健康被害も少ないのではないか、などというのが論拠だ。もっとも、大麻をきっかけに薬物中毒になるといった見方も依然強く、これらの異論が社会にどれだけ受容されるかは不明だ。
「アルコールやタバコに比べて害が少ない」
英ガーディアン紙の記事
「名門大学生たちが大麻を吸っていたなんて事件は、ニュースの大見出しにはとてもならない。もし、それが日本でなければだ」
こう書いたのは、イギリスの一般紙ガーディアン紙。2008年11月3日付記事で、「日本が増加する大麻汚染に悩んでいる」と題して、その大騒ぎぶりに首をひねっている。
イギリスでは、大麻(マリファナ)は違法だが、比較的害は少ないとして、個人使用分の所持は刑罰の対象になっていない。また、オランダでは、ソフトドラッグとしてある程度認知されている。アメリカでも12州で犯罪とされないなど欧米では法規制が緩く、それに比べて、日本の厳しい取り締まりは際立っているというわけだ。
日本でも、大麻の取り締まりに反対している団体がいくつかある。ガーディアン紙は、そのうちの一つを取り上げ、「大麻はアルコールやタバコに比べて害が少ない」との主張を紹介した。
さらに、「大麻汚染」を巡っては、アルファブロガーとして知られる経済学者の池田信夫さんも異を唱えた。11月16日のブログ日記では、同じ主張に加え、5兆6000億円とも推定されるタバコの社会的コストを指摘。「大麻とは比較にならない」として、「大麻で逮捕するのはナンセンス」とまで言い切っている。このエントリーは、ネット上で注目を集め、300以上ものはてなブックマークが付いている。
逮捕者が出た大学の学生からも、不満が出ているようだ。産経新聞は、16日付記事で、「大麻って、外国では合法でしょう。タバコより身体に悪くないらしいし、日本の法律もおかしい。マスコミも騒ぎすぎ」という4年生男子(23)の声を伝えた。
薬学教授「男性不妊やがんの原因になる」
新聞各紙によると、学生らが大麻に手を出すのは、海外からの影響も大きいらしい。海外旅行先で遊び感覚で大麻を吸ったり、大麻も持ち込まれる音楽イベント「レイブ」の影響を受けたり。また、大麻の伝道師のような一部留学生から「汚染」が広がった実態もあるようだ。実際に警察に捕まる留学生が出てきている。
大麻は害が少ないというのは、本当なのか。九州大学薬学研究院の森元聡教授(生薬学)は、こう話す。
「薬物には、切れるとほしくなる精神的依存性と、体調を壊す肉体的依存性の2つがあります。大麻は、両方とも少ないと言われています。また、毒性も弱いとされます」
これに対し、タバコやアルコールは、肉体的依存性はなくても、精神的依存性は強いという。毒性についても、タバコのニコチンやアルコールを急に多量に摂取すれば死ぬことがある。
こう見ると、害は少ないようにも思える。しかし、森元教授は、大麻には変わった作用があると指摘する。
「男性不妊やがんの原因になるのです。また、若年者が慢性的に吸引すれば、大麻精神病という統合失調症のような症状を示しやすくなります。もちろん、フラッシュバックといった幻覚もあります。無害と主張する人がいますが、変わった害があるんですよ」
さらに、大麻から始めて強いドラッグに進むケースも多いという。入り口になる薬物という意味で「ゲイティッドドラッグ」と呼ばれるゆえんだ。
「確かに、タバコやアルコールが危ないというのには賛成します。しかし、大麻は海外で規制が緩いからと言って、日本でもそうすべきということにはなりません。無害ということはないからです。私個人は、歯止めがきかなくなるので、規制すべきだと思います。自己責任を重んじる欧米との文化の違いもあるでしょう。日本では、大学の責任まで問われるのですから」