地域経済の低迷と、米国発の金融危機で乱高下する株式市場の影響で赤字決算が続出しそうな信用金庫や信用組合といった地域金融機関に、今度は「ペイオフ第1号が出る」という話が持ち上がっている。
「ペイオフの実験には、比較的預金量の少ない信金・信組で影響をみる」
「中小企業向け融資の円滑化」がねらいという金融機能強化法が衆院を通過した。しかし、中小企業金融の中心的な担い手である地域金融機関に加えて、大手銀行、農林中央金庫や新銀行東京までもが公的資金の資本注入の対象とすることに異論を唱える民主党が過半数を占める参院では、その成立に時間を要しそうだ。
そうした中で、またぞろ「ペイオフ」(金融機関が経営破たんしたときに、1000万円までの預金元本とその利息を預金者に支払う制度)の発動があるのではないか」「第1号はどこなのか」といったうわさが立ちのぼってきた。
波紋を呼んだひとつが、2008年9月のリーマン・ショック直後。金融機能強化法の必要性について、金融庁の佐藤隆文長官が「日本の金融機関の預金を全額保護する必要はない」と発言したことで、周囲が「必要ないものを用意するはずがない」と、逆に勘ぐった。
銀行界では、公的資金を必要とする、あるいはペイオフの「第1号」となる金融機関の名前の取りざたがはじまった。「大手や地銀は合併への道筋をつけ、ペイオフの実験には、比較的預金量の少ない信金・信組で影響をみる」と、ある地銀幹部は、さもシナリオができているかのように話す。
欧米では、相次いで銀行に公的資金が注入される。金融機能強化法は、そんな欧米と「足並みをそろえて金融危機を乗り切る」との政府のメッセージでもあるため、成立を急ぎたい。
ペイオフの発動で地域金融機関の再編劇が一気に動き出す
欧米に比べれば軽症の日本の金融危機だが、そこで囁かれているのが「見せしめ説」だ。「議論に切迫感がないし、法案成立がもめているうちに本当にどこかが破たんしてしまう。まるで、それを待っているかのよう」(前出の地銀幹部)。ペイオフの発動によって緊張感が高まり、地域金融機関の再編劇が一気に動き出すとの推測だ。
もっともらしく聞こえる「見せしめ説」だが、根拠がないわけではない。信金・信組は業界内で経営不振の金融機関を支援する仕組みをもっている。たとえば信金業界では、信金中央金庫が個別の信金の増資を引き受けていて、その数は全国280の信金のうち57金庫、3587億円に上る。信組業界も、164信組のうちの41組合が全国信用協同組合連合会を通じて541億円の資金支援を受けている。これまでは、この仕組みによって業界内での再編を促し、破たんを防いできた。
それでもなお、融資が伸ばせず本業を示す業務純益が下がり、自己資本比率も低下、不良債権も減らない信金・信組が少なからずある。加えて、3月時点で自己資本比率が5~6%台の信金・信組は、ここ数か月の株価や債券市場の乱高下によって有価証券運用での損失を膨らませて、さらに自己資本比率を下げていることが予想される。4%を割れば、事実上の経営破たんである。
金融機能強化法はこうした金融機関の経営破たんを「予防する」目的もあるわけだが、金融庁は「公的資金の資本注入と、ペイオフの実施はまったく別の話」と素っ気ない。金融機能強化法による公的資金の資本注入に審査がある以上、「審査に漏れて経営が破たんすればペイオフは発動する」としている。
結果的に金融機関の自己資本を厚くするために使われる公的資金は、地域の中小企業にはまわらず、金融機関の破たん処理を先延ばしする手立てになるようだ。