ペイオフの発動で地域金融機関の再編劇が一気に動き出す
欧米に比べれば軽症の日本の金融危機だが、そこで囁かれているのが「見せしめ説」だ。「議論に切迫感がないし、法案成立がもめているうちに本当にどこかが破たんしてしまう。まるで、それを待っているかのよう」(前出の地銀幹部)。ペイオフの発動によって緊張感が高まり、地域金融機関の再編劇が一気に動き出すとの推測だ。
もっともらしく聞こえる「見せしめ説」だが、根拠がないわけではない。信金・信組は業界内で経営不振の金融機関を支援する仕組みをもっている。たとえば信金業界では、信金中央金庫が個別の信金の増資を引き受けていて、その数は全国280の信金のうち57金庫、3587億円に上る。信組業界も、164信組のうちの41組合が全国信用協同組合連合会を通じて541億円の資金支援を受けている。これまでは、この仕組みによって業界内での再編を促し、破たんを防いできた。
それでもなお、融資が伸ばせず本業を示す業務純益が下がり、自己資本比率も低下、不良債権も減らない信金・信組が少なからずある。加えて、3月時点で自己資本比率が5~6%台の信金・信組は、ここ数か月の株価や債券市場の乱高下によって有価証券運用での損失を膨らませて、さらに自己資本比率を下げていることが予想される。4%を割れば、事実上の経営破たんである。
金融機能強化法はこうした金融機関の経営破たんを「予防する」目的もあるわけだが、金融庁は「公的資金の資本注入と、ペイオフの実施はまったく別の話」と素っ気ない。金融機能強化法による公的資金の資本注入に審査がある以上、「審査に漏れて経営が破たんすればペイオフは発動する」としている。
結果的に金融機関の自己資本を厚くするために使われる公的資金は、地域の中小企業にはまわらず、金融機関の破たん処理を先延ばしする手立てになるようだ。