医者というと高給、お金持ちというイメージが付きまとうが、勤務医はどうやらそうでもないらしい。非常勤の若手だと、手取りは20万そこそこ。高給どころか、「コンビニ店員」と同レベルという嘆きの声が医師の間から聞こえる。正規の職員でも、他の職種に比べて高くないと医師たちは主張する。過労死しても不思議がないほど労働時間の長さ。それを考慮すると結構安いのである。それが近年起きている「医療崩壊」にもつながっている。
高校教諭よりも給与が安い?
日本医師会がまとめた給与に関する調査結果によると、医師の年俸は814.9万円(35.4歳、所定内給与+残業手当など込み)だった。パイロット(39.3歳)が1381.7万円でもっとも多く、大学教授(55.8歳)が1189.1万円、記者(36.3歳)が962.2万円、高校教諭(35.4歳)が849.6万円。この調査だと、同年齢で医師は高校教諭よりも安いという、意外な結果になっている。
例えば、国立病院や都府県立病院だと「基本給+地域手当(もしくはへき地手当)+初任給調整手当」の合計が給与となる。初任給調整手当とは、民間病院との給与格差をなくすために、プラスされるもので、医師や歯科医、助産師などに支給される。ちなみに、東京都が現在募集をかけている都立病院の常勤医師の給与は、採用サイトによると「医師免許取得3年目で月収48万3500円程度、5年目で51万9300円程度、10年目で59万8500円程度」。このほかに扶養手当、住居手当、通勤手当、宿日直手当、ボーナス(08年度は年間4.5カ月分)がつく。
数字だけみるとそう安くはない。一流企業の会社員並みといってもいい。ところが、医師や看護士らの労働組合「日本医療労働組合連合会」の担当者はこう指摘する。
「時間外労働が過労死寸前の80時間近く、それに見合うだけの額をもらえていないのが現状です。もっとも、まともに時間外手当を支払えば、病院は倒産してしまうかもしれませんが…」
都内の病院に勤める医師も、
「看護師は時間外手当をもらえるが、医師は(ほとんど)もらえない。労働基準法違反が横行している」
と怒りをあらわにする。
労働に見合うだけの給与をもらえず、モチベーションが下がり、退職する医師が急増している。2008年4月、がん治療の権威である「国立がんセンター」で、麻酔医が相次いで辞め、手術に支障がでていると報じられた。その理由の一つに、給与の不満があったと言われている。
08年度の見込み支給額 約360万円
国立がんセンター中央病院の土屋了介病院長は「東洋経済」2008年11月1日特大号で、常勤医師の給与の実態を明かしている。
「彼らにはボーナスはありますが、超過勤務手当てをほとんどもらっていない。一律、月に数万円程度です。看護師の場合、業務命令の超過勤務に関しては100%支払われます。検査技師も実働の70%くらいは払われています。ところが、医師については実働の数%程度。予算が余った分を医師に機械的に割り振っています」
若手や中堅医師の流出が激しいため、人事院は国の医療施設に勤務する医師の年間給与を09年4月1日から平均で約11%引上げるよう政府に求めている。しかし、肝心の時間外労働手当については触れていなく、今後の課題となりそうだ。
さらに、厳しい状況に置かれているのが、非常勤の若手医師だ。「月の手取りは20万円。コンビニエンスストアの店員と(手取りが)さほど変わりない」とまで言われている。非常勤国家公務員の身分で、何時間働いても週30時間分しか給与が出ないからだ。
医師国家試験に合格すると、2~3年間研修医として勤務し、さらに専門分野の知識と技術の修得を目的とした研修(レジデント)が行われる。レジデントの対象は27歳~32歳。
国立がんセンター中央病院は現在、採用サイトでレジデントを14人募集している。そこには「08年度の見込み支給額 約360万円」とある。これなら手取りは20万円台だ。
全国でも非常勤医師は多い。厚生労働省が全国8943の病院を対象に行った調査(06年度)によると、常勤は14万5813人、非常勤は35万3778人。薄給な非常勤のほうが断然数が多いのである。そのせいか、アルバイトをせざるをえないという構造になっている。