地上デジタル放送への完全移行まで1000日を切ったが、ここ数年「地デジを見るのに工事が必要だ」と言って工事代金を請求するなどの「地デジ詐欺」が頻発している。また、ケーブルテレビ会社が、「地デジになるとテレビが見られなくなり、ケーブルテレビの契約を結ぶ必要がある」などと執拗に勧誘し、消費者センターへの相談も相次いでいる。背景には、設備以前に、「地デジ」の「知識」が普及していない事情がある。
「放送局」「電力会社」「電気工事業者」を名乗る
総務省によれば、地デジをめぐって詐欺や架空請求が行われた「地デジ詐欺」はこれまでに全国で27件にのぼった。うち12件が高齢者を対象にしたもので、「地デジを十分知らない人が、テレビが見られなくなると言われ、お金を払ってしまうというケースが多い」(同省)という。
同省や国民生活センターによると、典型的に多いのは、「放送局」「電力会社」「電気工事業者」を名乗る人物が「地デジを見るのには工事が必要」などと言って、「前金を払ってください」などと請求する例のほかに、「地上デジタル波アンテナ切り替え助成金」を受けるため1万円前後を指定口座に振り込むよう案内する文書を郵送で送りつけて騙し取るという例だ。
08年4月には、作業着を着た大手家電販売店を名乗る男性が「テレビ映りの調査」と訪問し、「すでに持っている地上デジタル放送対応テレビのためにチャンネル設定工事が必要」などと言い、工事代金を騙し取る事例が、北海道、東北地方を中心に頻発。07年12月頃からは、ポストに「電波レベル測定・チャンネル調整のお知らせ、全戸検査を受けるように」と書かれたビラを投函し、検査後に工事代金を請求する事例が関東地方を中心に多発している。いずれも、「今のテレビは見られなくなる」などと不安に陥れる手口だ。
さらに、地デジはケーブルテレビでも視聴でき、ケーブルテレビ事業者とのトラブルも頻発している。国民生活センターには、
「地デジになるとテレビが見られないという説明を受け、ケーブルテレビの契約を結んだが、説明より料金が高い」(08年8月)
「ケーブルテレビ会社の訪問を受け、地デジ放送が見られないという説明を聞いて契約した。あとで断ったが、工事に来るといわれて困っている」(08年9月)
「勧誘がしつこい」(08年8月)
といった相談が相次いで寄せられている。ケーブルテレビ会社が消費者の不安をあおって契約させるかたちだ。
アンテナが地デジ対応していない例も
地デジを見るためには、まず地デジ対応テレビを購入するか、アナログテレビに専用チューナーを取り付ける。それだけでなく、アンテナがUHFに対応しているか、ケーブルテレビ会社と契約する必要がある。
トラブルが相次ぐ背景には、「受信方法についての消費者への周知が不十分」との指摘も上がっており、総務省では「もっと周知を徹底しなければならない」としている。
総務省の調査では、08年9月時点の地デジ対応テレビや地デジ対応チューナーの世帯普及率は46.9%。実際に地デジ放送を視聴できる世帯は37.7%で、地デジ対応機器を持っているのにもかかわらず視聴できない世帯は9.2%にも上る。
総務省情報流通局地上放送課では、
「中継局が近くになく、電波が来ていない。対応テレビを買ったが、アンテナなどが地デジ対応していない。本人の接続・設定ミス、などが考えられる」
と説明している。