人材派遣大手のパソナグループが農業関連事業に参入する。独立就農を目指す人材を育成し、人材活用が不活発な農業分野の人材市場を開拓する狙い。パソナのほか、ワタミがすでに農業に参入し、グループ店舗に野菜を供給、流通コストを低減させるなどのメリットを出している。さらに、セブン&アイ・ホールディングスは2008年秋から直営農場で栽培した農作物の販売を始める、といった具合に、「農業」が注目を浴びている。
経営、営業面で外部の人材を派遣
パソナは2003年から就農希望者向けの農業研修などに取り組んできたが、2008年9月から農業ベンチャー支援事業を開始した。兵庫県淡路市で、農業生産法人以外の法人が農業経営できる「特定法人貸付事業」を活用して、2ヘクタール(6000坪)の農地を借り受け、農業事業を展開する。
農地法の規定で、普通の企業は原則として、田や畑といった「農用地」を買ったり借りたりすることはできない。しかし、農業生産法人にはこれが認められているほか、一定の条件を満たす場合は、農用地を借りて農業に参入することができる。これを「特定法人貸付事業」という。
就農支援施設「パソナチャレンジファーム」では、7人の研修生を対象に、地元の農業生産法人などからの技術指導を受けて、農作物の栽培から販売を行う。月給は約20万円の有期雇用契約社員の扱いで、4年目からの独立就農を目指す。
「パソナチャレンジファーム」では、大根、キャベツ、ブロッコリなどを栽培し、08年2月の収穫が見込まれている。同社は、「販売の仕方は未定」としており、同社の社員食堂への供給や、あらたな市場の開拓を模索する。農作物販売という点ではそれほどのメリットはなさそうだが、なぜ農業事業に参入するのか。同社広報室はJ-CASTニュースに対し、
「農業の分野では外部の人材を活用できていない傾向がある。経営、営業面で外部の人材を派遣する狙いがある」
と話す。同社では、「パソナチャレンジファーム」で独立就農した経営者などをビジネスパートナーとすることで、人材派遣のあらたな市場が広がると見ている。
ワタミではグループ店舗に野菜を供給
一方、セブン&アイ・ホールディングス傘下のイトーヨーカ堂は、2008年8月に千葉県・富里で農業事業を開始。富里市農業協同組合から約2ヘクタールの農場を借り受け、大根・キャベツ、にんじん、ほうれん草などを初年度で約130トン栽培・収穫する計画で、08年秋にも千葉県内のイトーヨーカドー6店舗での販売を開始する。販売店舗数も県内21店舗まで拡大する予定だ。生産履歴管理システムを農場と売り場で一元化することで生産性を上げるほか、品質管理を徹底するのが主な狙い。また、店舗から出される売れ残りの野菜などを堆肥に再活用して、直営農場で再利用する「循環型」農業を展開する。
パソナやイトーヨーカ堂に先立って、居酒屋チェーンを展開するワタミでは2003年に農業事業に本格参入し、グループ店舗に供給している。
同社によれば、全国に8箇所、476haの農場や牧場を展開。2008年3月期の農業部門の売上高は約30億円に上る。農場では、レタス、大根、キャベツ、白菜、インゲン、ブロッコリ、なす、ほうれん草、水菜など約40種類の作物を栽培。自社農場で栽培された農産物の7割はグループ店舗・老人ホームで使用しているという。農業事業に参入したメリットについて、同社は「食の安全」の確保のほか、
「市場を通さない流通がほとんどのため、流通コストの低減ができています。また、店舗やホームという安定した販売先がありますので、安定的に収益を上げられる仕組みになっています」
としている。
耕作を放棄された農地が全国に広がり、05年の法改正で特定法人貸付事業を導入する自治体が増えていることも、一方で背景にある。新たにビジネスチャンスが広がったと見て、農業事業に参入する企業は今後も増えてきそうだ。