米国発の金融危機や株価下落が、この数年、「売り手市場」といわれてきた大学生の就職戦線にも影響し始めている。「経営が悪化した」という企業側の一方的な理由で、9月ごろから「内定取り消し」をするところも出てきた。学生からは「不安でたまらない」「これはひどい」といった声が上がっている。
6月に内定、8月末に内定取り消し
駒澤大学によると、男子学生2人が、9月以降、企業側の事情で一方的に内定を取り消された。1人は、自動車の部品を輸出する会社に内定が決まっていたが、「経営が悪化した」との理由で10月上旬に取り消しに。別の学生は不動産会社に決まっていたが、同じ理由で9月に取り消された。駒澤大学キャリアセンターの担当者は、
「学生はその後もめげずに就職活動に励んでいます。でも、こういうことが起こると、本当に困りますね」
と穏やかな口調の中にも、怒りを隠しきれない様子だ。
東洋大学ではメーカーやサービス業から内定をもらった複数の学生が、内定を取り消された。キャリア支援センターの担当者は、
「企業の人事担当から、『事業を見直すことになり、取り消させてもらう。申し訳ない』という連絡が当センターに入りました。07年は、こんなことはなかったのですが…」
といい、戸惑っている様子だ。
就活中の学生による口コミサイト「みんなの就職活動日記」内に08年10月30日、こんな書込みがあった。
「7月に内定を決定しました。と手紙をもらい、細かい書類などは、後で送りますと言われ、もう4か月…。
内定式なども終わってるこの時期でも来ないのは、取り消しされてしまったのでしょうか。小規模な会社なため、不安でたまりません」
また別の学生も8月27日、こう書いていた。
「6月に内定、8月末の今になって内定取り消し。
建設コンサルタントです。
これはひどいのでは?」
学生が直接、企業から取り消し通知を受けることも多い。その場合は学生本人が大学に伝えない限り、全体数がわからない。大学で把握しているより件数は多いと見られる。
内定取り消し、泣き寝入りしかないのか
関西でも内定の取り消しが相次いでいるようだ。10月29日付け「朝日新聞」によると、関西の私立大に通う学生は10月中旬、内定をもらった東京の大手メーカーから、電話で内定を辞退するよう促された。大阪市の不動産会社に内定していた男子学生は9月下旬に呼び出され、取り消しを告げられた。
事態を重くみた大学側は、これから就職活動を進める大学3年生向けに講座を開いている。大阪府立大は「危ない企業の見分け方」をテーマにした講座を10月29日に開催。200人の学生が参加した。関西学院大は「景気と企業の採用活動の関連性」を題材にしたセミナーを11月に開く予定だ。
企業は正当な理由があれば、内定を取り消すことができる。例えば、内定者が内定後に犯罪を犯したり、学歴を詐称していたりした場合だ。経営の悪化が内定取り消しの正当な理由に当たるかは微妙だが、企業側の一方的な事情で取り消した場合、内定者は法的手段を取ることができる。東京・中央労働局の担当者は、
「内定を取り消されて損害をこうむった場合、損害賠償請求ができます。例えば、内定をもらい、他の会社を辞退した場合などが考えられます。損害額は『次の就職が決まるまでの期間×支払われるはずだった月給』が妥当なラインでしょう」
と説明する。
また、こうも言える。内定を取り消した会社は訴えられなくても、大学内で知られたら翌年から応募が来なくなったり、ネットに書き込まれて「企業イメージ」が悪くなる。リスクを承知した上で、断っているとすれば、相当、業績が悪化しているということだ。学生にとっては就職する前にわかり、不幸中の幸い、だったかも知れない。