「事故米を主食用として卸業者に売却する」――。こんな記載がある農林水産省が農政局や農政事務所などの所轄に宛てた、「総合食料局長通知」が見つかった。農水省はJ-CASTニュースに対し、「書き間違いという単純なミスだった」と弁明している。ただ、この通達を受け取った現場が、農薬や毒カビに汚染された「事故米」も売却可能、と受け取る可能性もある。さらに、現在も正式な訂正はされておらず、単純なケアレスミスなのかどうかの疑問すら残っている。
「事故米穀」とは農薬や毒カビに汚染され食用不適と認定された米
農水省は「書き間違いという単純なミスだった」と弁明
問題の通知書は「物品(事業用)の事故処理要領」というタイトルで、農林水産省総合食料局長通知として2007年3月30日付けで出されている。ここには米や麦の「事故品」については「極力主食用に充当するものとする」と書かれている。
「事故品」というのは、米や麦を入れてある袋が破けたというものから、カビが出たもの、残留農薬があるものなど。また、農薬や毒カビに汚染され主食用不適と認定された米穀は「事故米穀」とし、非食用として処理する、としている。しかし、この「通知」を読み進めると、
「事故米穀を主食用として卸業者に売却する場合において・・・」
と書かれ、値引きした場合は局長(計画課)に申請しなければならない、といった売却方法の手順が説明されている。「事故米」の食用転売を農水省が自ら進めている疑惑が出ても不思議ではない。
この文書を見つけたのは日本共産党の紙智子参院議員。参議院の農林水産委員会に提出された資料の中にあったもので、配布された当時は「事故米」事件は発覚していなかった。70ページ以上に及ぶ分量だったこともあり、見逃されていた。紙議員がこの通知書を改めて精査し、発見した。紙議員の事務所では、
「BSE騒動以来、農水省は食の安全を政策の中心に置くと言っていたが、それが全くのウソであることを証明するもの。今後、国会の場などで事故米について追及していく」
とJ-CASTニュースに話した。
今回の「事故米」騒動については、三笠フーズなど米粉卸業者が工業用糊などに使うなどとして「事故米」を仕入れ、食用として偽装転売した。仕入先は農水省なわけだが、三笠フーズなどに対し、地方の農政局が積極的に「事故米」の売り込みをしていたことも明らかになっている。「事故米穀」は「事故米」のことで、食用にはならない米だ。
「通知書があるということすら知りません」
農水省総合食料局消費流通課はJ-CASTニュースに対し、カビや農薬に汚染された「事故品」でも、食用が可能と判断されれば「主食用」として販売していることを明らかにした。その上で、「食べられない」非食用と認定したものは工業用にしか販売していないとし、
「通知書に書いてある『事故米穀』の主食用の販売に関する記述は、『事故品』の書き間違い。非食用を食用として販売することはない」
と話した。ただし、農水省の担当者はJ-CASTニュースの取材で初めてこの記述を知ったようで、「事故米」を業者に卸した地方の農政局事務所が、この通知を信じて従った可能性については、
「書かれているわけですから、信じる人が出る可能性はありますが、非食用を食用として売るなどとは考えられません」
と話している。試しに、三笠フーズなどに「事故米」を販売した北陸農政局に取材したところ、担当者は、
「そのような通知書があるということすら知りません」
と話していた。